第90話 罪。

 これが悪いってことは、私も知っている。

 それは尚くんの家から逃げた後のこと…。


「……私は何を…」


 抑えられなかった衝動に、気づいたら尚くんを傷ついてしまったのだ。

 当時の私は何が間違ったのかすら分からなかった…。どうしてそんなことをしたのかなと思う時、あの人が私の前に現れた。花田菜月…。まだ付き合ってないはずの二人がとても羨ましくて、どうしても尚くんを私のものにしたかった…。


 でも、それは失敗してしまった。


「イロハちゃん…?」

「……」


 本能が危険な人って認識し。すぐ無視しようとした時…、彼女は私にを提案した。私がやったことをなかったことにする条件で…。自分の言うことをよく聞くワンちゃんになってほしいって…、微笑む彼女は私と目を合わせていた。


「やってくれるよね…?」


 その一言に、私はすぐ頷いてしまった。

 今この人を敵に回すと、面倒臭いことになるから…。彼女の話に従って、そこから逃げる方法を探していた。ずっとこのままいられないから、知らないうちに変なことをされるかもしれない。それがすごく怖かったから、あの人の前で笑みを浮かべるだけだった。


「でも、ワンちゃんって頑張った後はご褒美が必要だよね?」

「い、いいです。そんなこと…」

「こっちきて…」


 彼女の赤い瞳は変な能力でも持っているのかな…?

 彼女と目を合わせると、体が勝手に動いてしまうような気がする…。


「あっ…! いきなり…!」


 それが初めてだった。

 誰かが私のアソコを触ってくれたのは…。


「気持ちいいかな…? イロハちゃん…」

「……」

「嫌だったらすぐやめるからね?」


 馬鹿馬鹿しい…。


「もう…、ちょっと…」

「へえ…、イロハちゃん…。感じてる…? 可愛い…」

「……」


 顔が熱くなって、わけ分からない気持ちに襲われてしまう私だった。

 何…? この感触は…。すごく気持ちよくて、ずっとこのままやめないでほしかった。多分好きだったこの感情を我慢しすぎて…、誰かに慰められたかったかもしれない…。寂しくて、悲しくて…それでもすごく気持ちよかった…。


「気持ちいい…?」

「はい…っ!」


 恥ずかしい声とともに、床にぼとぼと落ちる液体…。

 彼女に従うと…、いつもこんなことをやってくれる…。


 私はそれをやめるのができなかった。


「エッチ…。イロハちゃん…」

「……っ」

「大丈夫、誰にも言わないからね?」

「はい…」


 そして、私は尚くんを尾行を始めた。

 学校であったこととか、学校が終わった後のこととか…些細なことまで全部花田菜月に報告した。何も知らない尚くんには悪いけど、私はやめられなかった…。それに何回見せてくれたエッチをする尚くんの顔。花田菜月とやっている時の写真でもいいから、尚くんのその顔が見たくて堪らなかった。


 ずっと一人でやってしまうほど、私は我慢できなかったのだ…。


「今日もありがとう〜」

「はい…」


 ご褒美として、彼女はまたエッチをしている二人の写真を送ってくれた。

 尚くんが他の女とあんなことをしてるのに、私は何もできない。ただ、彼女の膝の上で慰められるだけ。恥ずかしい声を漏らしながら、尚くんとやる想像をするのが精一杯だった。もう届かない場所にいる…。尚くんは…。


 ……


 ある日、私は罪悪感を感じた…。

 尚くんにそんなことをしているけど、彼はまだ知らないから…。だから、あの女は危ないって曖昧な言葉を話してしまった。これを諦めたら、ご褒美がなくなるから、それがなくなるのは嫌…。それがなくなると、私にはもう何も残らないから。


 でも、花田菜月はそれを知っていた。

 私が罪悪感を持っているのを…、なぜか知っていた。


「あっ…、あっ…」

「イロハちゃん…」

「はい…」

「尚くんに素直に話してもいいよ…?」

「何をですか?」

「裏でそんなことをするのは苦しいでしょう? だから、素直に話して…」

「そんなことを話したら…、もう…」

「ご褒美がなくなるのがそんなに嫌なの…?」

「……はい」

「じゃあ…。まずそれを話して、自分の心を楽にしたら…? 話しても何も変わらないから、安心させるのよ。尚くんを…」

「は、はい…」


 だから、私は嘘をついたの…。

 そう言っても、私は変わらなかった…。むしろ、尚くんが監禁された原因を与えたかもしれない。尚くん…本当にごめんね。こんな私で、こんな私が馬鹿馬鹿しいことをしていて…。それでも、この歪んだ形の恋をやめるのはできなかったの…。


 後ろに縛られている両手と、ワンちゃんになったような首輪…。

 足にかけられた手錠と、何度も花田菜月とやった尚くんのモノ…。


 裸姿の尚くんもすごくカッコよくて、やりたかった…。

 私もやりたい…、尚くんと気持ちいのがやりたいのに…。


「ダメだよ…。イロハちゃんは、できない…」


 目の前にいるのに…。どうせ、眠ってるから私に気づかれないはずなのに…。

 この距離で…、ただ尚くんを眺めるしかなかった。

 

「今日はちょっと多いかな…? めっちゃ出てるけど…、興奮したの? 尚くんを見て…」

「……っ」


 どうしたらいいの…? 私はどうしたら…。


「一人で行ってもいいよ…」

「……」

「ずっと頑張ってくれたからね…? イロハちゃん…、こんなの好きでしょう?」

「はい…っ…」


 ぼとぼと…。

 静かな部屋の中で、液体が落ちる音がした。


 楓くん…。ごめんね…。


 私の罪は…いつまで続くのかな…?

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