第92話 彼女の奴隷。

「あーんして、尚くん」

「あーん…」

「よしよし…」


 何か、温かいのが口の中に入ってくるような…気がする…。

 首輪を引っ張る花田さんの、喜ぶ声が聞こえていた…。でも、花田さん…本当に眼帯を外してくれないんだ…。あの日彼女の笑顔を見てから一度もその顔を見たことがない。そして何度も彼女の前で謝罪をしたけど…、俺の話なんか何一つ聞いてくれなかった。


「美味しい…? 温かいお茶を用意したからね〜。体冷えてるんでしょ?」

「うん…。温かい…」

「フフッ…。はあ…っ、私の尚くんはどうしてこんなに可愛いのかな…」

「……」

「先までやってたのに、またやりたくなっちゃう…」

「……や、休んだ方がいいと思うけど…」

「フン…、そうかな? 尚くんもずっとそこに束縛されただけじゃ、楽しくないよね…?」


 その話を聞いた時、俺は少しの希望を抱いてしまう。

 やっとここから解放してくれるのか…、やっと普通の生活に戻るのか…? 俺は涙が出るほど、その話を待っていたのだ。


「少し、散歩しようかな…?」

「散歩…?」

「うん!」

「か、解放してくれるってこと…?」

「何を考えてるの? そんなわけないでしょ? そのまま家の中を歩き回るのよ〜」


 それって、犬みたいに歩くこと…?


「可愛いのが見たい…。尚くんはずっと私を傷つけたから、解放などしないよ? 大丈夫。責任は私がちゃんと取るからね…?」

「……」

「やってくれるよね…? 尚くん。私の尚くんなら、絶対やってくれると思う…」

「うん…」

「はい〜。可愛く歩いてみて…、私がいるところまでくるのよ…! 頑張って!」


 何も見えないけど、めっちゃ恥ずかしい…。

 監禁されてから数日…? いや、数ヶ月が経ったのか…? 分からない。こんな生活をいつまでするんだろう…? それでも、従うしかない俺だった。


「頑張れ…! 尚くん!」

「……うん」


 今なら眼帯を外すこともできるけど、外した時に何をされるのか分からないから怖い。たまには手錠をかけられたままベッドに連れて行く花田さんだけど、これは完全にペット…。いや、ペットじゃなくてもはや奴隷になってる感じだった。


 手足の手錠と、首の首輪…。

 そしていつだったのか分からないけど、俺は花田さんの体を舐めたこともある…。ちゃんとやらないと…、すぐ怒られるから…。彼女の要求は絶対的なこと。途中で諦めたり、ダメみたいな弱音を吐くとすぐスイッチを押してしまう。俺はちゃんと従うべき…、そうすると幸せになるって話をずっと言われていた。


「ここ…?」

「うわ〜。よしよし…、頑張ったよね? 可愛い。私に撫でられたい?」

「うん…」

「どこ…?」

「あ、頭じゃない…?」

「頭…じゃなくてもいいけど…?」

「……頭でいい」

「本当に…?」


 静かに頷く俺を抱きしめた花田さんは、すぐ床に倒して俺の体に乗っかる。


「なんでこんなことを…?」

「征服欲ってことよ…」

「撫でられるのは頭じゃ…」

「そうしたかったけど、気が変わった」

「えっ…?」


 えっ…? またやる…?

 それよりゴムをつけてないけど、花田さん…? あれはやばいって…。


 首輪を引っ張られて、声が出てこなかった。


「最近ね…。尚くんをメチャクチャにするのが楽しいから…、うふふっ」

「……っ」

「撫でられたいのはこっちでしょ?」

「……」

「その表情…、可愛い…。抗えないよね? これが征服欲ってことだよ? 何もできず、ずっとやられっぱなし…。尚くんの体は私に任せばいい…」

「はあっ……」


 いつも変なのを飲ませて、いつもこんな風に…。


「ケホッ…!」

「ちゃんと飲んでね…。ここは尚くんと私の楽園…」

「ケホッ…、ケホッ…」

「一滴も残さず、全部飲んでね…?」

「……」


 でも、今度はちょっと違うような気がした。

 いつもと同じの水じゃないのか…、俺の意識がどんどん薄れる…。眩暈…? いや、なんか…体も熱くなるような…。花田さんは俺に何を飲ませたんだ…?


「ううん…。これでいいのかな…?」

「……」

「おおっ! ちゃんと効く! 嬉しい…」

「菜月…」

「うん。尚くん…」

「何…、これ…。やりたくなる衝動が…」

「そうだよね…?」

「手錠、外して…」

「我慢できないの…?」

「うん…。どうして、俺…こんな人じゃない…!」


 今すぐ花田さんとやりたい…。

 わけ分からない気持ちが心の底から湧き上がる…。


「本当に…、私がいないとダメだよね? 尚くん…」

「うん…。菜月がいなきゃダメ…」

「やりたい…?」

「うん…」

「お願いしますは?」

「お願いします…」

「ふふっ」


 そして、気持ちいいことをする二人。

 恥ずかしい喘ぎ声が部屋の中を埋め尽くす時、菜月のスマホに電話がかけられた。


「……」


 その電話番号だけで、彼女は知っていた。

 自分のお母さんだったのを…。


「……っ」


 電話に出る菜月は、すぐスマホを床に下ろした。


「はあっ…」


 尚と気持ちいいことをしながら、母の話を聞く。

 もちろん、そんな話など菜月の耳には入らなかった。ただ、尚と気持ちいい一時を過ごすだけ。腰を動かすとすぐ可愛い声を漏らしてしまう尚に、菜月はすごく喜んでいた。


「そこに行くから…」


 すると、その一言を聞いた菜月がびくっとする。


「ここに…? どうして…?」


 すぐ電話を切った後、尚とやっていたことを終わらせる菜月。

 もうすぐここにくる人たちに尚を取られたくなかったから…、それに焦る菜月だった。そしてどんどん激しいやり方で尚を攻めていた菜月は、尚から出る何かを感じてしまう。


「あっ…! ……っ!」

「……」

「やっちゃった…。今度は…できるかな?」


 そして何も見えない尚の前で、微笑む菜月だった。

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