第82話 放課後の二人。−4
「お母さん…?」
「今日は…、仕事が多いから…。行ってくるね?」
「うん…」
あの頃の私はそれでもお姉さんのことを忘れられなくて、たまに電話とかをかけていた。もちろん、お姉さんは私の電話に出てくれなかった…。お母さんがすごく苦しんでいる時は頼れる人がいなかったから、私も仕方がなかった。そして、しばらく家の問題で先輩と連絡をしなかったせいで、いつの間にか先輩との連絡も切れてしまった。
やはり、何も残らないんだよね…。
虚しくて、寂しくて…。何をやっても楽しくないから、時間を無駄にしていた。
「……先輩」
なぜ、連絡をしてくれないのかな…?
L○NEや電話をしても、先輩から連絡はこなかった。
「……」
ベッドでスマホを握って、天井を見つめる。
どうしてこうなったのかをずっと考えていたけど、私にできるのは何もなかったから…。その無力な自分がだんだん憎くなるだけだった。先輩のことも私がずっと待たせたから仕方がないことだと、そう考えていた。全部私のせい…、だから…。
もう忘れよう…とした…。
ある日、私があの先輩とまた出会う前までは…。
「そうですか…? へえ…、それは意外ですね…」
「そう…? フフッ。でも、私はそんなところがいいと思う」
「私はどうですか…? やはり先輩とは釣り合わないんですか…?」
「えっ…?」
「あっ、す、すみません。なかったことにしてください! ハハハッ…」
「……もしかして、私のこと好き?」
偶然…、道を歩く時だった。
聞き覚えのある男女の声が聞こえて振り向くと、お姉さんと先輩が一緒に歩いている姿が見えてきた。見間違えたかなと思ったら、本当に二人が一緒に歩いていた。なんで…? どうして? いつからそうなっちゃったの? 慌ててすぐ壁の後ろに隠れてしまったけど、あの二人が一緒にいる事実がとてもショックだったから…。しばらくそのままじっとしていた。
「……」
先輩「ごめん」
そして数日後、先輩から届いた一つのL○NE。
先輩とはまだ付き合ってないけど、好きだった人が他の人を好きになったことがすごく悲しくて…。お姉さんのことを憎んでいた。私が先に好きだったのに、どうしてお姉さんが先輩と一緒に歩いてるの…? 私には何も話してくれなかったくせに、どうして先輩とはそんなに楽しく話してるの? どうして、どうして…? その笑顔が見たかったのに…、妹としてお姉さんのことが好きだったのに。お姉さんはいつもお父さんみたいに背中を見せてくれた…。
なのに…どうして先輩には笑ってくれたの…?
理解できなかった。
理解しようとしなかった…。
好きな人を取られた感情とともに捨てられた感情が、私を苦しめる。
息ができない…。誰かが私の首を絞めるような気がした。
「……どうして?」
どれくらい部屋に引きこもったのか分からない…。
「はあ…」
疑問ばかりの人生、そしてどんどん疲れていくお母さんの姿が見えた。
納得いかない…。どうして、先輩はお姉さんとそんなことをしてるの?
このままじゃダメだと思った私は結局、馬鹿馬鹿しい選択をすることに決めた。それは直接先輩と話をすること…。自分が愚かなことをしている自覚はあった。それでもこの嫌な気持ちをどうにかしないと…、耐えられない私だったから…。
数日後、私は先輩と二人で話すことになった。
「葵ちゃん…。話って…」
「先輩…。あの、彼女できましたか…?」
「知ってたんだ…」
「偶然…、二人で歩いているのを見てしまって…」
「うん…」
そして、久しぶりに会った先輩はいつもより元気がないような気がした。
私の前で話している先輩から、以前の明るい顔は見えなかった。コーヒーコップを握った手が震えていることとか、なぜか狼狽える姿とか…。数日が経った後の先輩は何かに怯えてるように見えた。
変な様子…。
「先輩? 今日、用事でもありますか?」
「う、うん? いや、ないけど…ない…」
「どうしたましたか? 忙しいなら…また」
「いや…。次はないかもしれない」
「はい…?」
先輩の不安そうな顔に気づいたけど、何も言えなかった。
何をそんなに…。
「あの…!」
そして何かを話そうとした先輩は、テーブルに置いておいたスマホを床に落としてしまった。震える手でスマホを拾う時、私は先輩の腹についている赤い何かに気づいてしまう。それは、汚れかな…?
「ご、ごめん…。葵ちゃん…」
「いいえ。先輩、服に何かついてるんですけど…?」
「えっ…?」
「そこに…、赤い何かが…」
「あっ…! き、気にしなくても…いいよ。ごめん」
スマホを渡す時に、先輩の手がすごく震えていた。
なんで…? 一体何があったの? それが気になるから、先輩に聞いてみた。
「先輩…」
「うん?」
「あの、何かあったんですか?」
「何か…って…」
「顔色が悪いですよ…?」
先輩は何かを怖がっている…。なぜ…?
それが知りたかったからしつこく話をかけたけど、その時後ろから懐かしい声とともにお姉さんが現れてしまった。
「あら…、久しぶりだよね? 葵ちゃん」
「お、お姉ちゃん…」
「何? 二人は姉妹だったのか?」
「そうだけど? 知らなかったの?」
「うん…」
何この雰囲気…。お姉さんが来ただけなのに、先輩がすごく怯えている。
「ご、ごめん。また…、また…また…」
「先輩?」
「早く行こう。今日は忙しくなるからね?」
「うん…」
久しぶりに会った妹に…「久しぶりだよね?」だけなの…?
久ぶり…それだけだった。
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