第83話 放課後の二人。−5
その後ろ姿を見つめていた私はまた何もできず、その場でじっとしていた。
久しぶりに声をかけてくれたお姉さんはすごく綺麗で、誰でもすぐ惚れてしまいそうなそんな雰囲気を出していた。頭もいいし、スタイルもいいお姉さんに、もう勝てる気がしない。憎い人だけど、私よりすごい人だったから…それだけは認めていた。
少し、羨ましかった…。
「……お母さん」
「うん? どうしたの? 葵ちゃん」
「私…、頑張るから…」
「えっ…?」
「私も頑張ってみるから…、お母さんは私を捨てないよね…?」
誰か私のそばにいて欲しかった。
家族、友達、恋人…。誰でもいいから、私を支えて欲しかったんだ…。もう前のことは思い出したくない。私一人で頑張って…、いつか好きな人と幸せな人生を送りたかった。それが一番カッコいい復讐だと、私はそう思っていた。
それを決めた日から、再びやるべきことを考えた。
「うん…。ごめんね。最近お母さん忙しいから、葵ちゃんのそばにいられなかったよね?」
「うん…。ずっと、お母さんは忙しかったから…」
「お母さんも葵ちゃんのことが大好きだから、大好きだから…。葵ちゃんが立派な女性になるように、お母さんずっと頑張ってたよ?」
「うん…。お母さん好き…」
「うん…」
それだけで十分だった。
もう前のことはどうでもいい…。お母さんのために…、そして私のために生きていくだけ。
先輩「葵ちゃん…今どこ…?」
そして普通の日常に戻ってきた私に、一つのL○NEが届いた。
葵「学校ですけど?」
先輩「もう無理…。この人、マジで怖い…」
葵「はい?」
それを送った後、また連絡が切れてしまった。
……
そして私がまた先輩と会えたのは数ヶ月後だった。
いつもと同じ帰り道。成績がだんだん上がっている自分の成績表に笑みを浮かべる時、ある男が私の前に現れたのだ。
「葵ちゃん…。俺を…、隠してくれ…」
「はい…? どうしました? 先輩…」
すごく痩せた体と、完全に枯れた声。
そして首筋にはわけ分からないあざがいっぱい残っていた。黒赤色の何かが…。
「先輩…?」
「はあ…、はあ…。俺の選択は間違ったんだ…。ごめん…。ごめん…。葵ちゃん」
息を切らして、すごく走っていたようだ…。
先輩はお姉さんと付き合ってるはずなのに、どうしてこんなに急いでるのかな…? このままじゃ倒れそうだったから、仕方がなく先輩をうちに連れてきてしまった。
「はあ…」
「水…持ってきました」
「ありがとう…」
「お姉さんと…何かあったんですか?」
「あの人は怖い…。俺が葵ちゃんに嫌われたと思って、葵ちゃんのことを忘れようとした時…。あの人と出会ってしまった。あの時は知らなかったけど、葵ちゃんとそっくりだったあの人に一目惚れしてしまったんだ…」
「……」
「すぐ忘れられないから…、あの人と付き合えば忘れるんだろうと思ってね。でも、それは間違った選択…あの人の独占欲にもう飽きてしまった…。これを見てくれ…」
目の前で上着とシャツを脱いだ先輩の体にはびっくりするほど、赤いあざと歯形みたいな痕がいっぱい残っていた。首筋だけじゃなくて、肌色の上半身が全体的に汚れてしまったような姿だった。
「別れようと…、彼女に話して…今はそこから逃げてしまった」
「そ、そうですか…?」
そして横腹にはナイフで刻んだようなハートが残っていた。
お姉さんは一体先輩に何をしたの…? 分からない…。私が知っているお姉さんはこんな人じゃないのに、どうしてこうなっちゃったの…? 男なんか、興味なかったんじゃないの? どうして、飢えてるようなことをしたの…? 先輩の体に残っているその傷は普通じゃなかった…。それは私が知っている「恋」じゃなかった…。
「葵ちゃんとまた会えて嬉しい…。ごめん、あの時…変なL○NEを送って…」
「いいえ。だ、大丈夫です。私も家のことでちょっと…」
「うん…。ありがとう…」
よく分からないけど、あの雰囲気はこんなことをする雰囲気だったのかな…?
気づいた時は先輩と唇を重ねていた。
「はあ…、先輩。こんなことはまだ…」
「ごめん…。ちょっと怖くて…、葵ちゃんの温もりが欲しい…」
「先輩…、ダメェ…」
ダメって言っても、止まらなかった。
私はどうしてこんなことを…。
……
「葵ちゃん…、ごめんね」
「いいです。そんなこともう気にしないから…」
体にお姉さんの匂いがついていたけど、耳元で「好き」と囁く先輩を拒否するのができなかった。先輩が抱きしめてくれた時の温もりがとても気持ちよかったから、今までずっと寂しかった私にはとても気持ちいい感覚だった。
その温もりにすごく安心していた…。
好きだった…。
「先に…、葵ちゃんと付き合いたかった…。早く連絡して欲しかったのに…」
「すみません…。事情はあって…」
「でも、こうやって会えたからもういい…」
「はい…」
生まれてから初めて、男と恥ずかしいことをやってしまった。
私と先輩が出した恥ずかしい声は部屋の中に響いて、二人っきりの大切な思い出を作ってしまった。誰にも言えない、気持ちいい思い出を…。
「俺さ、葵ちゃんのことが好き…」
「先輩…」
熱くなった私の頬を触りながら、先輩と目を合わせていた。
とても気持ちよくて、とても嬉しい一時…。
「私もです…」
ようやく、口に出したその一言。
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