第81話 放課後の二人。−3
何が正解だったのかな…? その後、私はお母さんと話をしようとしたけど…。
お母さんの顔はもう誰とも話したくないって、そんな雰囲気を出していた。誰かに相談したいけど、私のそばには誰もいなかった。お姉さんは何かに憑かれたような顔でずっと勉強をしていたから、私にこの雰囲気はとてもつらかった。
幼い頃の雰囲気とは完全に違う。今まで築き上げた思い出や感情は物理的な暴力ではなく、この雰囲気のせいで崩れてしまった。私は、ここから逃げるべきだったと思う。
それほど、息苦しい場所だった。
私に家っていう場所は…。
「お姉ちゃん———!」
結局、離婚することを決めた。
そうなってしまった。お姉さんはお父さんと、そして私はお母さんと…もう家族でもないそんな関係になってしまったのだ。永遠に会えないかもしれないのに、どうしてそんなに落ち着いてるの…? お姉さんに私はなんなの…? 妹じゃなかったの? どうして何も言ってくれないのかを…、花田菜月の前で話したかった。憎いから…。
私を捨てたんだ…。
私とお母さんを捨てたんだよ…。
花田菜月はいつもお父さんに褒められてるから、私なんかと違っていつも圧倒的な一位を維持してるから…。私なんかと話したくないって…、そんな雰囲気を出していた。あの優しいお姉さんはいつの間にか「静かに」「勉強に集中できない」とか、まるで私が邪魔みたいな言葉を吐き出して、自分の勉強に集中していた。
最後まで…、私は花田菜月を見ていた。
家を出る私とお母さんに…。何も言わず、自分の勉強をしているその姿を…。
私はずっと…、ずっと…、忘れられなかった。
……
「なんか…、二人の間にあったことが…分かりそうだけど…。それでも、菜月の話を聞いてみた方がよかったんじゃないかな?」
「私は何度も花田菜月に声をかけました。お姉ちゃん、お姉ちゃんって…。でも、あの人に私は邪魔…だったかもしれませんね」
「……それが二人の中を悪くさせたのか…」
「何も知らなかったから、あの頃の私は…。ただお母さんの手を握って、その家を出ました」
「そっか…、白川にも菜月しかいなかったはずなのに。なぜそんな冷たい反応をしたのかは、俺にもよく分からないな…」
「先輩、あの人は自分のために生きていく人です。決して、誰かの幸せなどを考えていません。あの人の幸せは、自分だけが幸せになることです」
コーヒーのコップを握っている白川の手が震えていた。
二人の間にそんなことがあったとは思わなかった。でも、それだけじゃ…何か足りないって気がする。白川は前とは違う花田さんの態度が原因だと言ったけど、離婚の話をしたのは両親の選択だからな…。憎くなるのは理解できるけど、それだけじゃ花田さんのあの不安を説明するのができない。この話の中に、何一つ…花田さんがどうしてそんな不安を抱くようになったのかを説明していない。なら…。
「先輩?」
うん…? ちょっと待って…。
先の白川は「お母さんの手を握った」と言ったよな…?
「あのさ、もしかして菜月のお父さんって…再婚した?」
「できるわけないでしょう? たまに一人で調べてみましたけど、まだ…再婚していないみたいです。あんな性格悪い人と一緒に暮らす女性が可哀想だから…」
やはり、そうだったのか…。
微かに覚えている花田さんのその顔…。そして彼女は俺にこう話した。「お母さんが送ってくれた物」と…、そのお母さんはなんだ…? 誰が、誰が花田さんにそれを送ったんだ…? この話通りなら、お母さんという存在はすでにいなくなったはず。
そして俺はお母さんが帰る時の、彼女の顔を思い出してしまった。
来る前とは違って、すごく悲しい表情をしていたから…。初めて見た。花田さんのそんな顔を、俺は初めて見た…。もしかして…、花田さんにもそれはトラウマじゃなかったのか…? 家族を失ったのは白川だけではないはずだから…。
「先輩は…どうしてあの人とそんなことをするんですか?」
「うん…?」
「先輩の体を見ただけで分かりますよ…。やってるんでしょ? ベッド上で…、花田菜月といやらしいことを…」
「……どうして…」
「先輩が思い出せなかった。〇〇駅刃物事件、私が前に言ってましたよね? 遊園地で。それを思い出せるのか…と」
「そうだったよな…」
「そう…。あれが起こる前までは私も…。あの人のことを理解しようとしてました。そうするしかなかった。それがお姉ちゃんの最善だったと、何度も…、何度も…。自分にその言葉を繰り返しました…」
「まさか…」
「なのに…」
頬を伝う涙がコーヒーコップに落ちて、俺はさりげなく白川の頬を拭いてあげた。
「先輩は…、あの人がどれだけ汚いのか分かってますか?」
「……」
白川はすごく悲しい顔をしていた。
「これは私と花田菜月が別れた後のことです。多分あの人が大学生になる前の話…」
「うん…」
……
私はあの日から、ずっと泣いていた。一人で…ずっと泣いていた。
誰にも言えないことが私に起こってしまったから、悲しくて…それが堪らなくて一人で泣いていた…。どうして私たちがこうなってしまったのかを…、誰も私に教えてくれなかったから…。一人で過ごす時間が増えてしまった…。
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