第67話 誰かの物。
知っているって…、ずっとここにいたはずなのに…?
俺と目を合わせる花田さんは、すごく寂しそうな顔をしていた。お花見をする時は平気だったのに、どうしてこうなってしまったんだ…? 花田さんの中にいる不安がまだ消えていないってわけ? だから、しつけ用の首輪を俺につけて…コントロールしようと…。心配することは何もないのに、いつも何かに怯えていた。
「答えてみて…」
電流のせいで首が痛い…。
そしてこの首輪を外したかったけど、一人でできることではなさそうだった。
「じゃあ、聞きたいことがあっ————!」
また…。
「聞いてるのは私だから…、尚くんは大人しく選びなさい」
「……」
彼女は何をそんなに怖がってるんだろう…?
俺が彼女の前で消えること…? あるいは他の女子と話して、浮気するかもしれない可能性…? わけ分からないこと。いつもそばにいるって話してあげたのに…。どうしてこんなことをするんだ…。どうしてだ…? 俺は何をすればよかったんだ…?
「あっ————————! 許して、許して…菜月」
その痛みにどれだけ足掻いても、俺は彼女の手のひらの中だった。
「早く選ばないと…、またスイッチ入れちゃうよ…?」
バイトをやめた後はどうなる…?
花田さんと一緒にいても…。気に食わないことがあったら、今みたいなことをされるんだろう? 逆にやめないと、こんな拷問を受ける日々が続く。どっちを選んでも結局同じことだと、一人で悩む時だった…。いきなり俺を襲う花田さんが、体の上に乗って笑みを浮かべる。片手に持っていたスイッチを俺に見せる彼女は、またその痛みを俺に感じさせてくれた。
「私の尚くんはどうして、返事をしないのかな…? 普通ならもう言ったはずなのにね…?」
「……っ!」
「痛いんでしょう? 素直に答えたら、すぐやめるのに…。なんで答えないの? もしかしてやめられない理由でもあるのかな…?」
声が出てこないほど、首が痛くて涙を流していた。
助けて…ください。誰か…。痛い、痛い、痛い…、もう我慢できない。どうして俺にこんなことをするんだ…? 俺が好きだった花田さんはこんな人じゃなかったはずなのに、どうしてこうなっちゃったんだ…? 苦しい…、苦しい…。
ダメだ。もう…。
「や、やめるから…。もう…」
「本当に…? 私のためにやめてくれるの?」
「う、うん…」
「嬉しい…」
「や、やめるから…。もうしない…よね? こんなこと…」
「ううん…。私はもうちょっと考えてみようかな…?」
「え…」
「大丈夫。私から離れないなら、私もこんなこと使わないから…」
「うん…」
知っていたけど、俺はやはり危険な人と付き合ってしまったよな…。
今日も寝る前にあんなことをする予定だけど、怖くて指先がすごく震えている。今更、励ますようなことをしても…花田さんが怖いってことは変わらない。そしてバスローブを脱いで、俺の体を撫で回す彼女がその温かい体を俺にくっつけていた。
「尚くん、怖かった…?」
「ちょ、ちょっと…」
「私…、尚くんじゃなきゃダメだから…。どうしてもそばにいてほしいの…」
「うん…」
「私のこと嫌いにならないで…、尚くん…」
しばらく、俺たちはベッドの上でくっついていた。
目を閉じても、花田さんが俺を見つめるその視線が強い…。
「尚くん…、寝てる?」
「寝てないよ…?」
「じゃあ…、私…やりたいけど…」
「今日は…、あの疲れたから…」
「きょ、今日は私とやらないんだ…」
そして、すぐ涙を流す花田さんにびっくりしてしまう俺だった。
今までずっとやってきたけど、今日に限って体が疲れたっていうか…。先のことで緊張したこともあるから、こんな雰囲気で花田さんとできるわけない。
「うっ…、尚くんは私とやるのが嫌なんだ…」
大粒の涙が俺の頬に落ちる。
「い、いや…。そんなことじゃなくて…菜月?」
「ちょっと疲れただけだから…、そんな風に思わないで」
「恋人って…、毎日やるから恋人だよね? やらないと、なんの意味があるの…?」
「何…、その考え方。心配しないで、そんなことないから。前にも言ったけど、ずっと菜月のこと好きだから…」
「うん…。じゃあ…、今日はキスだけでいい」
「うん…」
手首には手錠がかけられて、首には先の首輪がつけられたまま。
俺を束縛するための道具は日増しに増えてるような気がする…。今日も変な首輪を持ってきて拷問したから、俺はどうすればいいのかずっと悩んでいた。眠れないこの夜。俺はそばにくっついている彼女の頭を撫でながら、一人の時間を過ごした。
「尚くん…、好き…」
寝言を言いながらぐっすり寝ている花田さん…。
別れるという選択肢もあるけど、今の花田さんにそんなことを言い出したら…。
きっと…、精神が崩れてしまうよな。俺のことがそんなに好きなら、それくらいは理解してくれると思うけど…。花田さんは何かのトラウマを持っているように見えていた。だから、彼女のそばにいるのがよりいい選択肢だと判断を下す俺だった。
でも、花田さんが俺を離してくれるわけもないし…。
最初から、俺は花田さんの物だった。
「……ううん」
そして、何が花田さんを不安にさせたのか…。
その根本的な原因を知らないと、彼女はずっとこのまま不安に怯える人生を生きていくかもしれない。
やっぱり、明日…白川に聞いてみた方がいいかもな。
最後にそれだけを聞いてみよう…。
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