第66話 寂しがり屋。−2

「ただいま…」

「尚くん!」

「う、うん…。菜月、ごめん。遅くなっちゃって…」


 帰ってきたばかりの彼氏を抱きしめて、すぐ甘えてみた。

 いつも笑顔で私を抱きしめるのは好きだけど、ちょっと嫌なのは尚くんからあの女たちの匂いがすること。だから、そんなバイトもうやらなくてもいいよ。尚くんは私と一緒にいればいい…。お金の問題も、私が解決してあげるからね…?


「尚くんの卒業まで後1年かな…」

「うん…。そうだけど?」

「尚くんももう3年生だから、勉強頑張らないとね?」

「うん…」

「だから! バイトはやめよう! 家賃とかは私が払うから!」

「それはちょっと…」

「私ね! 尚くんがバイトをやめて、私と一緒に過ごす時間を増やしてほしいの…。お金は私が払うから…」

「……」


 やはり、すぐやめる気はなさそうね…。


「菜月に負担をかけるのは嫌だから、バイトくらいはさせてほしい…」

「ねえ…」

「うん?」

「彼女がバイトやめてって言ってるでしょ…? どうして、話を聞いてくれないの? お金が必要なら私が払う、いくらでもいいから…私が払うよ!」


 私の言うことを聞かない尚くんは嫌いだ…。

 また、胸に穴ができてしまったような気がする。虚しい…、すぐ目の前にいるのに遠く行ってしまうような…。私はただ尚くんと過ごす時間が欲しくて、それだけなのに。お金の問題も全部解決してあげるつもりだったのに…。どうして、いつも私から距離を置くようなことを言うの…? 不安になる。すごく怖い…、一人ぼっちは嫌。


「……ひどい」


 拒否するなんて、ひどい。


 ……


 そして、今日も二人でお風呂に入る。

 お湯はすごく気持ちよくて、後ろには私を抱きしめる尚くんがいた。


「……なんか、口数が減ったような…」

「そう…?」

「何かあったら話してもいいけど…」

「先言ったけど、尚くんが嫌って答えたじゃん…」

「えっ? バイトのこと?」

「うん」

「それは…、菜月に任せっぱなしにしたら駄目人間になるから…」

「大丈夫…。私がいるんでしょう?」


 お風呂から上がった後、私はやはりあれをするべきだと思っていた。

 きっと尚くんの考えが変わるはず、私はいつも尚くんのことを考えている優しい彼女だから…。今夜から始めてみよう。これは全て私たちのため、尚くんもきっと喜んでくれるよね…? ずっと尚くんのそばにいた私だから、分かってくれると思う。


 私の「愛」は…、尚くんにちゃんと伝わるよね?


「菜月…?」

「尚くん…」

「うん」

「私ね…。実は怖いの」

「何が…?」

「尚くんが他の人とイチャイチャするかもしれないってことか…、怖い」

「そんなことしないよ? だって、菜月がいるから…」


 そう言ってから唇を重ねる二人。


 そして、私は尚くんに使ってみたかったあの物を首につけてあげた。


「うん…? これ何…?」

「尚くんが私の言うことを聞かないから…。今日から、新しいことをやってみようと思ってね…?」

「……」

「尚くんはどうして彼女がいるのに、彼女の言うことを聞かないの?」

「さ、最近は大人しくしていたけど…」

「それじゃない。バイトのことよ?」

「バイト…」


 白川葵と仲良く話している姿、それが嫌だった。

 尚くんの日常生活を私に報告する子から、いくつかの写真が届く。それはいつも私の心を苦しめていた。彼女がいるんだからもっと注意してほしいのに、やはり…あんなバイトやめさせた方がいい。尚くんは私が、ずっと私が面倒を見るから…。


「ちょっと痛いかもね…?」


 そしてスイッチを入れてみた。


「えっ…? なっ————! あっ————! ツキ…」


 すぐ喘ぎ声を出す尚くんはとても可愛かった。

 私が尚くんにつけたのはしつけ用の首輪…。元々、ワンちゃんとかに使う物だと思うけど…。彼女の話を聞かない彼氏はワンちゃん以下だからね…? そんな尚くんのために、私は教えてあげたかった。私の「愛」の味をね…。


 私が尚くんを自由にしてあげたのは、そんな意味じゃないよ。

 もっと私に感謝するべきだから…、優しい私に従ってほしいから…。


「……はあ、はあ」


 またスイッチを入れる菜月、その首輪から電流が流れていた。


「なっ——————! やめて、痛い…菜月…痛い、許して痛い…」


 尚くん、痛いよね…。やはり、持ってきてよかった…。

 これがあれば…、尚くんを完全にコントロールするのができるかも…。涙を流しているその顔、可愛い…。一人じゃ外せないその首輪を、頑張って外そうとする尚くんも可愛い。どうしてそんなに可愛いの…? やっぱり、私の恋は間違っていない。嬉しい…、尚くんと一緒にいるのがすごく楽しい…。


 もっと私の前で…、その顔を見せてほしい尚くん。

 興奮しちゃって、ソコが濡れちゃった…。


「尚くん、私は尚くんが何をしているのか…。全部知ってるからね? 今から、尚くんが選んで…」

「はあ…、何を…?」

「尚くんがバイトをやめるなら私もこんなことしない」

「うん…」

「それでも行きたいなら毎日この首輪をつけて5分、私に調教されるの…」

「どうして…? 菜月の話、ちゃんと聞いてるんだよね? 別に嫌なこととか…してないのに…」


 確かに最近は大人しくて可愛かったと思うけど、問題はそれじゃない。

 私はあの子の存在を許せない。私の前に現れて、またあの時と同じことをしようとするから…。私の物は私が守る。だから、尚くんも私に従うべき…。


 もう不安に怯えるのは嫌だから、私のそばに尚くんを置きたい…。


「ねえ…、尚くん」

「うん…」

「私はいつも尚くんの隣にいるよ…? どこに行っても、何をしても…。私は全部分かるから…」


 そして涙が伝う頬を舐めた私は尚くんが答える時まで30秒ずつ、そのスイッチを入れてみた…。


「……許して、菜月」

「私がほしいのは『許して』じゃない…。知ってるんでしょう? 尚くんも…」

「……」

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