第57話 スイートルーム。
とあるホテルのスイートルーム。
ドアを閉じた花田さんが、俺をベッドに連れてきた。
「……尚くん」
「うん」
「私、今日は慰めが欲しいの…」
そう言ってから俺の服を脱がす花田さん。
「目を閉じて…」
やはり、すぐあんなことをやってしまうのか…。馬鹿馬鹿しい…、彼女に悩みがあるならそれを聞いてからやっても遅くないのに…。俺はキスをする時の感触に気を取られて、花田さんに身を任せるだけだった。
息ができないほど、激しいやり方で俺を襲う花田さん…。
何これ、欲求不満…? 首筋を噛む彼女の前で、俺は我慢できない恥ずかしい声を出してしまった。涙が出るほど痛いのに、花田さんには何も言えなかった。この後、何をされるのか分からないから…。無理やり笑顔を作って、彼女を抱きしめる。
「はあ…、尚くん。尚くんは私のそばにいてくれるよね?」
「うん…。そばにいるよ?」
「そば…にいて…」
花田さんと一緒にいると、いくつかの疑問ができてしまう。
彼女は「離れる」という行為や言葉をすごく嫌がっていた。だから、花田さんの前で話す時は気をつけないといけない。もちろん、花田さんから離れてしまうような行為にも注意すべきだった。そんな風に思わせないのが一番だけど、俺も普通の人間だからそれを100%守るのはできない。
「だよね…? 今日は…これをつけてもいい…?」
バッグから首輪を取り出した花田さんが、俺を見てウジウジしていた。
「首輪はちょっと…、痛いけど…」
「嫌なの…? それって、尚くんはもう私のことが好きじゃないってこと…?」
「いやいや…、そんな意味じゃなくて…」
「そばにいてくれるって話も嘘だよね…? 私は今日慰めが欲しいって言ったのに…尚くんは私のことを全然考えてくれないんだ…」
そして、彼女は俺の「恋」をずっと疑っていた。
正直、花田さんみたいな美人と付き合ったのはすごい幸運だと思う。でも、今みたいに俺の恋を疑うような話を言い出すから、ちょっと不安になる。些細なことに気にしすぎて、彼女は俺が言ってないことまで勝手に想像していた。
「自分でつけて、私の前で…。つけてみて! 好きでしょう? 私のこと…」
「うん…」
「可愛いから…、首輪をつけた尚くん…」
「……」
「なんで、つけないの…? 首につけてみて…! 早く…、早く! 早く! 早く! 早く! 早く! 早く! 早く!! 言ってることが分からないの?」
「……分かった。お、落ち着いて…」
声を上げる花田さんの前で、俺はすぐ首輪をつけた。
「可愛い…。私は尚くんのことが好きだから、大切にしたいの…。一人しかいない、私の大切な彼氏だから…」
「うん…」
どこからそう感じたのか分からないけど、彼女はその「不安」を感じるたびに俺を縛り付けようとした。一度監禁された経験がある俺は、花田さんに縛られるとすぐ素直になってしまう。それを、彼女も知っていた。だから、自分の話に従わせるためにこんなことをしている。
「嬉しい…」
不安はすぐ消えたりしない。
「傷、治ったの?」
「うん…」
そのたびに、花田さんは自分の証を残して何度も「好き」という言葉を言わせた。
「ここ…、綺麗にできたよね? 相合傘」
「うん…」
「尚くんもこれ好き…?」
「うん…。可愛いと思う」
「へへ…」
彼女と目を合わせていた俺は笑みを浮かべる。
そして、話が聞きたかった。何に不安を感じたのか…、俺は彼氏だから。でも、聞いてみてもいいのか…? 今の花田さん…ちょっと怒ってるように見えるけど、本当に大丈夫かな…。
「尚くん、私と気持ちいいことをしよう…」
「……うん」
キスをした後、着ていた服を床に投げ出す花田さん。
目の前で見える真っ白な肌と真っ赤な瞳…。
「尚くん、興奮したの…?」
「……うん」
せっかくスイートルームまで来たのに、やっぱりやるのはこんなこと…。
抗えない…、紐を握られた俺はそのまま花田さんに抱かれてしまった。そして、スイートルームだからか…。敷き布団が気持ちいいのもあるけど、雰囲気が半端ない。二人っきりのスイートルームには、俺と花田さんの喘ぎ声が響いていた。
……
「はあ…、菜月。もう、無理…。勘弁して…」
「足りない…。愛情が足りない…、好きってもっともっともっと言って」
「好き…、菜月のことが好き…。好きだから…、休ませて…」
それから…、再び時計を見た時は3時間くらい経った後だった。
「私のことが好きだよね…? 私から離れないよね…? 約束してくれるよね?」
「うん…。約束だから、ずっとそばにいるから…」
首、腕、胸、腹、足。これが花田さんとやる時に噛まれたところ。
ほぼ30回くらい噛まれて、体のあちこちが痛くなったけど…。それより、首輪のせいで息ができなくなったのがもっとつらかった。
「じゃあ…、最後…もう一回…」
またゴムを取り出す花田さんと、俺は深夜まであんな行為を続けていた。
「……うっ…」
床に散らかっている俺たちの服と使用済みのゴム、そして空っぽの箱。
髪の毛を後ろに流す花田さんが裸の姿で俺を見つめていた。
「……尚くんは私の物だから、誰にもあげない。ずっとそうだったの。私の…尚くんだったのよ」
体をくっつけた菜月が尚の首にキスをする。
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