第52話 陰から…。−2

 新刊を買いに来たけど、こんなこと普通の女子が好きになるわけねぇだろう…。

 しかし、楓のやつは女子に興味ないって言ったくせにめっちゃ喋ってるよな…。それと白川が俺についてきても、何かを手に入れる保証はないはずだ。どうしてわざわざ俺たちについてきて、こんなことをしてるんだろう…? 分からない…。


 目的は…、何?


「あっ、そうだ。名前をまだ聞いてない」

「わ、私は白川葵です! 今年17歳になります!」

「えっ、そうか。じゃあため口していい?」

「はい!」


 やっぱり女子に慣れてる楓は積極的だな…。

 そして、俺は新刊を探すために二人のことを無視していた。


「……これか? え…、2冊しか残ってないんだ…」

「へえ…、『お父さんが再婚して、見知らぬお姉さんと同居を始めます…!』…ですか? 先輩、こんなこと好き?」

「なんで、こっちに来たんだ…。先まで楓と話してたんじゃなかったのか?」

「確かに九条さんはいい人ですけど、私が興味を持ってるのは先輩だから…!」

「そっか…。じゃあ、俺は本を買う」

「なんで、妹じゃなくて姉ですか?」

「え…、別にそんなこと関係ねぇだろう…?」

「年下の方がもっと魅力があります!」

「はいはい…」


 楓との約束だとしても、別にすごいことをする俺たちじゃないから…。


 書店を出て、そのまま近所のレストランに向かう。

 そして当たり前のように、白川が俺たちについてきた。なぜか変な目で俺を見つめる楓と、隙を見せるとすぐ俺にくっつこうとする白川…。今日は変なことが起こらないように、心の底から祈っていた。


 ……


「それで、それで…! 二人いつそんな関係になったんだ! 聞かせてくれ」

「……」


 好奇心の猛獣…。前の席で目をキラキラしている楓だった。


「先輩、話してください!」

「……」


 さりげなく俺のそばに座る白川に、どうすればいいのか分からなかった。

 楓には俺たちの関係を言いたくないけど…、雰囲気を読めない白川が勝手に言いそうだから。結局、どっちを選んでも止められないんだ…。白川、めっちゃ話したいって顔をしてるし…。


「私! 先輩と同じカフェでバイトをしてます!」

「えっ? そうだったのか? だから、仲が良かったんだ…」

「それだけだから、もう誤解するな」

「そして、先輩のことが大好きでついてきました!」

「えっ? 尚、お…お前二股…?」

「人聞きの悪いこと言うな…。そんなわけねぇだろ…!」


 堂々と楓の前で話すのか、白川…。


「ふ、二股…」

「うっせぇ…」

「先輩、これ美味しいから食べてみてください!」


 そして食後のデザートを俺に押し付ける白川に、楓が沈黙していた。


「白川…、俺には彼女がいるからその言い方はやめてくれない?」

「え…、彼女がいることとこれと別ですよね? なんなら、奪えばいいじゃないですか? へへ」


 自分が言い出した言葉に、自覚してほしいけどな…。

 すると、前でコーヒーを飲んでいる楓が何も言えず、俺たちを見つめていた。むしろ、この状況で何かを話してほしいけど…。こんな時に全然役に立たないのが俺の親友、九条楓だ…。白川は本当に何がしたいんだろう…。人の前で堂々と、彼女のいる俺に「好き」とか言い放って…。


「もしかして…?」

「やめろ…。楓、それは禁句だぞ」

「私、こう見えても先輩のこと満足させる自信ありますから」

「な、ななな…、何変なことを言うんだ…! 楓もいるから、ちゃんと考えてから話してくれ」

「だから、私の方を見てください! ずっと避けられてるから、私も悲しくなりますよ?」

「尚…。お前、裏ではモテる人だったんだ…?」

「違うって…」

「……」


 ちらっと葵の方を見る楓。


「九条さんも面白い人ですね!」

「あっ、そ、そう?」


 先からハンバーグ定食を食べていたけど、二人のせいで味が分からない。

 そばから笑顔で「奪えばいいじゃないですか?」と言った白川に、楓は興味を持っているように見えた。「綺麗で可愛い人だけの人にはもう飽きた!」と言った楓だから、少しやばい雰囲気を出す白川に惹かれるのか…?


 先からジロジロ見てるし…。


「先輩…! この後、予定ありますか…?」


 いきなり袖を掴む白川が、可哀想な目で俺を見上げていた。


「尚! カラオケとか行かない? 葵ちゃんも一緒に!」

「わぁ…! いいですか?」

「おい…、これから…ゲ———っ!」


 デザートのケーキで尚の口を塞ぐ楓。


「行こう! 尚!」

「……分かった。分かった」

「わーい! 先輩と一緒にカラオケ…!」

「……」


 ……


 ———静かな尚の部屋。


 尚の枕を抱きしめている菜月が、誰かにL○NEを送っていた。


 菜月「あの子、今どこにいる?」

 ??「今、3人でどっかに向かっているように見えます」

 菜月「フン…。ダメって、教えてあげたのに…、尚くんはまた私の話を聞かないんだ…」

 ??「それより、女の方が問題だと思いますけど…」

 菜月「そう…?」

 ??「はい…。この前からしつこくつきまとったりして、柏木くんが断っても諦めないようです」

 菜月「うん。教えてくれてありがとう」

 ??「あの…、柏木くんは大丈夫ですよね? まだ…」

 菜月「私の物には、気にしなくてもいいよ…?」

 ??「す、すみません…」


「じゃあ…、私も久しぶりに外出かけようかな…?」


 着ていた尚のシャツを脱いで、引き出しから口紅を取り出す菜月。


「……なんで、ここに来たのかな?」


 薄暗い部屋の中で、はっきり見える真っ赤な唇と瞳。

 そして、鏡に映っている菜月は笑みを浮かべていた。

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