第46話 バレンタインデーのヒビ。−4
ドアを開けると、その前には電気もつけずじっとしている花田さんがいた。
玄関からずっと俺を待っていたのか、何も言わず床に座っていた彼女はいつもより怖い雰囲気を出していた。その姿に少しためらっていたけど、仕方がなく声をかけることにした。
「な、菜月?」
「……」
「先のL○NEは何…? な、何かあったのか…?」
「尚くん…、尚くんはどうしていつも私を傷つけるの…?」
「えっ…?」
そして、あるの写真を俺に見せる花田さん。
「この女は誰…?」
「……」
そこには俺を抱きしめる白川の姿が写っていた。
花田さんはもしかして俺たちの尾行をしていたのか…? あの時、俺は白川に抱きしめられていたけど、周りに人がいるかいないかをずっと確認していた。誤解される状況を避けるために、注意を払っていたはず。だけど、この写真はどこから撮れたんだろう…? これじゃ…、「浮気」そのものじゃないのか…?
「なんで、この女に抱きしめられたの?」
「……そ、それは…」
この状況で俺が何を言っても、花田さんにはただの言い訳にしか聞こえないよな。死んだ目で俺を見つめる彼女に、体が少しずつ震えていた…。花田さんが裏切られるのを一番嫌がる人って知ってるのに、それでもなぜか「ごめん」という言葉がすぐ出てこなかった。
命の危機を感じたような気がする。
「どうして、何も言ってくれないの? 私は尚くんが幸せな学校生活を送るように、自由にあげたよ…? どうして、私の言うことを聞いてくれないの…?」
「あの…、それには理由が…」
「やっぱり、尚くんは私のそばにいた方がいいよ。服、全部脱いで…。手錠をかけてあげるから…」
「いや…、それは…それだけは…」
「何を…? 私は今、すごく優しく話してるよ…? 浮気した彼氏だとしても、私の彼氏だから優しく話しているのに…。また私を失望させるつもりなの…?」
振り向く時の赤い瞳に、体が動かなかった…。
また、そこに閉じ込められるのは嫌だ…。やっと…、学校に行けるようになったから、その自由を失いたくなかった。また暗い部屋の中で、何もできないまま時間だけを過ごす日々は嫌…。どうしたらいいんだ…。俺はただ…真実が知りたかっただけなのに…。
逃げたかったけど、俺が花田さんから逃げられるのか…?
ここから逃げるためなら、俺が彼女を制圧するしかない状況だった…。しかし、彼女を制圧したとしても、俺の立場だけが不利になる…。彼女はお金持ちだから。そして俺が逃げることに成功したとしても、彼女は必ず俺を見つけ出す人だ…。実家の住所やお母さんの連絡先を知ってるから、見えない首輪が俺を絞めていた。
万事休す…。
「尚くん、そこから動かないの?」
「今度だけ…、許してください…」
「今度だけ? ねえ…、尚くん。何を言ってんの? 私が今までどれだけ許してあげたのか知らないの?」
ずっと嫌な現実から目を逸らしてきた。
それが怖いって知っているから…。
「ちゃんと注意するから、閉じ込めないで…」
「嫌だ。服を脱いで…、尚くんはいい子でしょう?」
「……」
「あ…。もう…」
花田さんはカッターナイフで俺の制服を破り捨てた後、指先で顎を持ち上げた。
「私は尚くんのことが好きだから、そばに置いてるんだよ…? でも、尚くんは私の愛を汚したの。私のことが嫌になったら、尚くんにもう生きる価値はない…」
「好きだから…! 嫌いとか言わないで…」
「……そう? 嬉しい…」
腹から感じられるカッターナイフの冷たい感触に、涙が出そうだった。
「私は…、尚くんのことが好きだっただけなのに…」
「……」
「尚くんはこんな私が好きだよね…?」
「うん…。菜月のことが大好きだ…」
「私も、好き…」
床にカッターナイフを落として、俺と唇を重ねる花田さん。
その恐怖感に襲われて、何もできなかった…。
「私は尚くんと一つになるのが好きで…。一緒に美味しいものを食べたり、遊びに行ったりするのが大好きだからね?」
「うん…」
「へへ…、好きって言ってくれて嬉しい…。そして、尚くんにもそれなりの事情があるかもしれないから…。私が選択肢をあげる」
「せ、選択肢…?」
「うん。一つはうちで反省するまで監禁されること、二つは…」
そう言いながら、指先で俺の腹をつつく花田さん。
「カッターナイフでここに相合傘を書きたい…」
「な、なんって…?」
「どっちを選ぶ…? もちろん、後者の場合は今と同じ日常生活ができるよ。そしてうちに監禁されたら、私が学校側やお母さんに連絡してあげる」
「……どうして、そんなことを…」
「尚くんが好きって言ってくれたのが嬉しいから、私が選択肢をあげたんだよ…?」
監禁されるのか、あるいは腹に相合傘を刻むのか…。選択…。
一つを選ぶしかない状況なら…。やっぱり監禁された方がいいと思うけど…。俺はそのカッターナイフには絶対触れたくなかった。見るだけで吐き気がするほど…、目の前に置いているカッターナイフが怖くて、怖くて堪らなかった。
「……」
あの真っ暗な部屋に、また監禁されるのは嫌だから…。
やっぱり、それしかないのか…?
「遅い…、どうする?」
「……」
こうなったら…。
俺が行ってはいけない領域に、足を踏み入れてしまったら…。
最後まで、ちゃんと調べるしかないよな…。
「うん…? どうする?」
「じゃあ…、好きにして…。俺は後者を選ぶ」
「うん! 優しくしてあげるから…、刻もう…! 私たちの名前を…!」
「うん…」
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