第43話 バレンタインデーのヒビ。

 今日は朝からすごく賑やかだった…。

 廊下を歩いていると、人たちが「バレンタインデー」と「チョコ」の話をしていることに気づく。もうそんな時期が来たのか…、だから家を出る前に「今日は早く帰ってきてね」とか言われたんだ…。ずっと一人暮らしに慣れていて、こんなイベントには全く興味がない俺だった。


「おい! 尚! 今日は…バレンタインデーだぞ!」

「で…? 俺とは全く関係ないイベントを言い出した理由は…?」

「チョコくれ…!」

「……俺がそんな物を持っている人に見えるのか」

「全然」

「なら…、お前に告った女子たちに『ください』って言え…!」


 すると、ポケットに入れたスマホからL○NEの振動が感じられる。


 菜月「今日は何をする日なのか、知ってるよね?」

 尚「うん…。家を出る時に話してくれたから分かる」

 菜月「うん! じゃあ、今日は早く帰ってね!」


 これって…、家を出る時に一度言われたことだよな…。

 わざわざ講義がある日にL○NEをするなんて…、どうせ俺にそんな物をくれる展開はないから安心するけど。そんなことまでチェックされるとは思わなかった。


「あっ! そこの二人! 今日も相変わらずここで話してるんだ…」

「おっ! イロハちゃんだ」

「はい! これ楓くんにあげる!」

「来たっ…! これが…、女子の愛を込めたチョコ…!」

「変なこと言わないで、ただの義理チョコだから…」


 この二人は仲がいいな…。


「あの…か、柏木くんのもあるけど…」

「いや…、俺チョコあんまり好きじゃないから…」

「えっ…? お前、チョコ食べねぇのか?」

「そうだけど…」

「一体どんな人生を生きてるんだ…」

「ほっとけ…」


 そう言う俺を楓は情けないって目で見てるけど、清水にはそれが嘘ってことをバレたような気がした。花田さんのことを知っている清水だから、仕方がないよな。それより今日もバイトあるから、花田さんにデザートでも買ってあげようか…。


 一応、バレンタインデーだし…。

 そして、遅くなるのはほぼ確定だし…。


「……」


 チャイムが鳴いた後、すぐ席に戻るクラスメイトたち。

 イロハは伝えたいことがありそうな顔をしたけど、なぜか尚を見つめるだけだった。


「……やはり、言えない」


 ……


 放課後。


 いつもと同じ一日が終わって、ゆっくりカフェまで行くつもりだったけど…。

 どうして、白川が校門の前で俺を待っているんだ…? そんな約束をした覚えはないけど、なんで当たり前のように腕時計の時間を確認する…? これも店長に何かを言われたからか…? 白川を任せっぱなしにするのは良くないと思うですよ…店長。


「あっ! 待ってました! 柏木さん…!」


 しかも、こっちを見て手を振っている…。


「あれ? おい…、尚! お前、あの子と付き合ってるのか…?」

「同じカフェでバイトをしている人、それだけ」

「へえ…、怪しいな」

「変な想像するな。じゃあ、バイト行くから…」

「おう〜」


 セーラー服…、学校終わってからすぐここに来たのか…。


「柏木さん! 今日は一緒に行きませんか? カフェ!」

「いいけど、どうしてここまで来たんだ? 遠くないのか? そこから」

「そんなに遠くないですよ? それより…カフェまで柏木さんとゆっくり話がしたいから! へへ…」

「何を…?」

「まずは行きましょう…!」


 そう言ってから俺の手首を掴む白川が、何かを急いでるように見えた。


「何してるの? 楓くん」

「あっ、この前に書店でぶつかった女の子が尚を待っていたから…」

「へえ…、そうなんだ」

「それで? 今日もみんなとカラオケ行く?」

「いや、私は今日用事があってね!」

「じゃあ、また明日!」

「うん!」


 どっかに急いでるように、早足で校門を出るイロハ。

 そして、その後ろ姿を見つめていた楓が呟く。


「みんな、忙しいな〜」


 ……


 テンションが上がってる白川と、二人で歩くこの道…。

 以前と変わらず、彼女には声をかけられない俺だった。余計に関わると、また変なことに巻き込まれそうだから…なるべく距離を置くことにした。しかし、距離を置いても向こうから近づいてくるのは止められないから、それが問題になるんだ…。


「今日はバレンタインデー、彼女からチョコもらいましたか?」

「まだだけど…、どうした?」

「へえ…、まだもらってないんだ。じゃあ、私があげてもいいってこと?」

「それはちょっと…、いいよ。他にあげたい人ないのか?」

「今は柏木さんにあげたいな〜」

「冗談言うな…」

「ひひひっ…」


 不思議だ。どうして、この子は俺にこんなことを言うんだろう…?

 それより…。白川が着ているその制服を、俺はどっかで見たような気がした。どこだろう…? 白川にはいつも疑問を抱くけど、何を考えているのかよく分からないからな…。「秘密の多い…」とか言われたし、俺にはちょっと苦手な女の子だ。


 今は二人きりだし、この前のことを聞いてみようか?


「柏木さん、柏木さんは今の彼女が好きですよね?」

「あ…、うん。そうだけど?」

「私には興味ないですか?」

「冗談言うなって先言っただろ…?」

「もし冗談じゃなかったら、大人しく私の物になってくれるんですか?」

「……」


 いつの間にか人けのない道を歩いている二人だった。

 そして後ろの壁に俺を押し付けた白川から、花田さんの姿が見えてしまった。こんなところで一体何をするつもりなんだ…? 白川は…。でも、これ…冗談ではなさそうだ。先とは確実に違う目をしている…。


「先輩〜。今は私が先輩のことを独り占めできる状況ですよ…?」

「最近の女の子は何もかも早いな…。俺を壁に押し付けて何をするつもり?」

「……私、先輩に興味あるかも」


 嘘だろ…?

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