第44話 バレンタインデーのヒビ。−2
「ま…ま、待って…! どこ触ってる…?」
「え…、ここが敏感ですか…?」
その目は冗談ではなかった。なら、白川は俺に何を望む…?
てか、最近の女の子はこんな風に言うのか…? 清水の時もそうだったし。強制的なやり方はともかく、いきなり自分の意見を押し付けるその言い方が苦手だった。だとしても、俺がどうにかできる状況じゃないから…。じっとして、その話を聞いてあげるだけだった…。
「先輩…、私と先輩の彼女…どっちが好きですか…?」
とんでもない質問が出た。
吸い込まれるような瞳。清水に襲われた時とは確実に違う…、白川のその目が俺を見ている。耳にかけた黒い髪の毛、そして俺を見上げる時の瞳に何かを感じていた。それは…、言葉で上手く言えないそんな感情だった。「どっち」って言われても、俺には花田さんがいるから…その答えはすでに決められている。
あいにく、白川の期待に応えるようなことは言えなかった…。
「もちろん、彼女のことだ」
「へえ…、羨ましいな…」
「なんで? 俺にそんなことを言ったんだ…? 説明してくれない? 白川」
「じゃあ、これはどうですか? 一つの質問に答えてあげる条件で、先輩のことを抱きしめてもいいですか?」
「はあ…?」
俺に花田さんを裏切るようなことをさせるつもりか…?
「知りたいのはいっぱいあると思いますけど…? 嫌だったら、このままカフェまで行きましょう!」
「ちょ、ちょっとだけなら…。ほんの…、ちょっとだけならいいと思う…」
俺にも知りたいことがいっぱいあるんだから…。
「はい! 契約成立! で…? 知りたいことはなんですか?」
「俺にこんなことをする理由は? そして白川は俺の彼女を知っているのか? 二度目の出会いで俺に聞いたその言葉の意味は…?」
「あらあら…、質問が多いですよ。先輩?」
「あっ…」
「じゃあ…全部答えてあげますから。今日バイト終わってからうちに来ますか? 但し、泊まる条件で…」
そう言った白川が骨盤のところを触っていた。
やっぱり変なことに巻き込まれるかもしれない…。知りたいのはまだいっぱいあるけど、一つに限られているから何から聞けばいいのかよく分からなかった。こんな時に慌てるなんて、俺ってやつは本当にダメだよな…。
「それは嫌? 尚くん…」
「……えっ…? 今なんって…」
「はい? どうしましたか?」
幻聴…? 先…下の名前で呼ばれたような気がしたけど…。
「どうしますか? 知りたいのを全部答える条件で、今日うちに行くんです!」
「それは…ちょっと困る」
「へえ…? 男には悪くない条件だと思いますけど…? 可愛い後輩の家に誘われるなんて、ドキドキしませんか? 誰もいない女の子の部屋で…、先輩の…」
どんどん小さくなる白川の声が、耳元から聞こえる。
そして、二人の距離が近い…。
「一つだけでもいい…。彼女がいるから…、そんなことはできない」
「フン…。じゃあ…、先輩の彼女を知っているのかに対して話してあげます」
「うん…」
「結論から言うと知ってます。昔からの知り合いでした!」
「うん」
「終わり!」
「はあ…? それだけ?」
「え…。知っているのかって聞いたから、知ってますって答えたんですけど…?」
俺のミスだったのか、もっと詳しく話すべきだった。
白川と花田さんは昔からの知り合いだったのか、だからあの時…年上って…。しかし、あの二人がどんな関係なのか…、それも知りたくなる。これ以上を聞いたら、多分白川の家に行かないといけない条件がついてくるよな…。厄介なことだ…。
どうして、はっきり言ってくれないんだろう…?
「じゃあ…、そろそろこっちから行ってもいいですか?」
「うん? 何を…?」
「先輩の質問に答えたら…、先輩のことを抱きしめてもいいって約束です!」
「あ…、うん。ほ、ほんのちょっとだけなら…いいと思う」
「はい…!」
そう言ってからぎゅっと俺を抱きしめる白川だった。
俺が他の女と、こんな風にくっつくなんて恥ずかしい…。
「わーい!」
幸せな顔をしている白川。
そして俺の中から罪悪感という感情が生まれてしまう。
「そ、そろそろいいんじゃない? く、くっつきすぎ…!」
「嫌です〜。私が言ったでしょ? 先輩に興味あるって…」
「それとこれと別だから、もう離れて…」
「へへ…、やっぱりうちに連れて行きたいな…」
「だから、彼女いるって…」
ほんの少しって言ったけど、ほぼ10分くらいそのままじっとする白川だった。
もしかしてわざと人けのない道を選んだのか…。
「へへへ…。先輩を抱きしめるのは…気持ちいいです!」
「変なことを言うな…。早く行かないと遅刻だぞ…」
「は〜い! 行きましょう!」
変な感覚…、それでも約束は約束だから仕方がない…。
そして遊園地で会った黒服の人も誰なのか知りたかったけど、白川がそれを知ってるわけないし…。花田さんに聞くのも無理だから、俺が考えるしかなかった。謎ばかりで、たまには嫌な予感がするけど、その全てが俺と関わっているような気がする。
なぜだろう…?
それを考えながら、道を歩いていた。
「菜月ちゃん…、今度はワンちゃんの教育をしっかりしたようで安心したよ…」
先に足を運ぶ尚と、その後ろからにやつく葵。
「先輩のこと…、私も欲しくなっちゃった…」
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