英雄の最後

 謎の戦艦に着艦後、アラン、アーサー、カーライル中尉の3人は機体から降りた。


「アラン生きていたんだね……」

「信じていたぜ! 俺じゃなくて凛がね!」

「何とか生きていたよ。ウォルフのお陰でね」


 アランが指を差した先にはウォルフ技師長がいる。

 E.G.軍宇宙センターで打ち上げの支援をしていた彼も無事だったのだ。


「大変だったさ。アランをコクピットから助け出す時に火傷したしな。まだまだ痛くて泣きそうだ!」


 ウォルフ技師長が包帯が巻かれた両手を突き出した。

 痛くて泣きそうだと言っているが、その姿は誇らしげに見える。

 アランを助けた事を自慢しているようだ。


「それで報告してもらえるか? 私はーー」


 バキッ!

 報告を求めたアーサーをアランは殴った。


「おいおい、何してんだよ! 本当に殴った?!」

「何の真似だアラン! 私を殴った理由はなんだ!」


 アーサーがアランに掴みかかった。


「私じゃないだろ。僕っ子アーサー。生意気なんだよ英雄坊や!」

「なっ、はっ?」


 アーサーが絶句した。


「僕っ子ってなぁ……確かにアーサーは僕って言ってたけどさ。僕っ子だと別の意味に聞こえるぜ?」

「アランが真剣な話をしておるんだ。少し黙っておれ!」


 ウォルフ技師長がカーライル中尉を黙らせた。


「元に戻れよ! 何がファングを滅ぼすだ! 俺のモノマネをして馬鹿にしてるのか?」

「馬鹿になどしていない! 私は自分の意志でファングを滅ぼすと決めたのだ」

「自分の意志? ならファングを滅ぼす理由は何だ?」

「それはアランが……」

「俺が何だって?」

「仲間が殺されたと思たんだ。なら戦うしかないだろ! 奴らはアランのーー」

「俺は死んではいない! だからアーサーがファングを憎む理由はない」

「でもノイは戦死した!」

「人のせいにするな弱虫!」


 アランは叫んだ。

 ノイは自分の意志で行動したのだ。

 彼には戦う力があった。

 だから可哀そうな犠牲者扱いされる事は許せない。

(ノイは守られるだけの弱い存在ではなかった! 妹の為に戦った戦士なんだ!)


「人のせいになどしていない。私が……僕が……守らないと……みんな死んじゃうだろ?」

「一人で全てを背負えると思うな。俺は命をかけて皆を守ろうと、一人で戦ってレイモンドに敗北した。でも、ウォルフや大佐が助けてくれた。俺はもう一人ではないと知った」


 アーサーは黙ってしまった。

(アーサーだって一人ではないだろ? 俺達がいるじゃないか!)


「もう一人ではないか……変わったなバークス少年、いやアラン」

「カーライル中尉も少し変わった気がするよ」

「そうか? もしそうなら、凛ちゃんのお陰かな?」

「それが本当なら凛は凄いな」

「何だよ。嫉妬すると思ったのになぁ」


 カーライル中尉がため息をついた。


「嫉妬か……最近は俺にもそういう配慮が出来ればと思っている。それが嫉妬につながるのか?」

「あー、もういいわ。期待したお兄さんが馬鹿だった」

「ぷっ、何の茶番ですかオリヴァーさん」


 アーサーが笑いを堪えられず吹き出した。


「何の茶番だって? アーサーも良く知ってる戦艦フリージア名物の茶番だろ? メインキャストのフィオナちゃんがいないのが残念だけどね」

「そういう言い方してると怒られますよ。そろそろ真剣に付き合った方がいいですよ」

「何でお前も凛ちゃんと同じ事言うんだよ。俺はそういう事言わない様にしてんだよ。言った直後に戦死しそうだからさ!」

「カーライル中尉は関係なく戦死しそうだけどな」

「酷いよアラン! 弱い俺を死なない様に守ってくれよ」

「嫌だね! そういうのは英雄様に頼みなよ」

「もう、英雄は止めるよ」


 アーサーが英雄を止めると言った。

 頑なに英雄の振りを続けていたアーサーが……


「何でだ? 俺が英雄坊やって馬鹿にしたからか?」

「あぁ、馬鹿にされて当然だよな……」

「なら、これからどうするのだ?」

「どうする元英雄様?」


 皆に問いかけられたアーサーが意を決して言った。


「僕はアーサー・グリント。E.G.軍の大尉だ」


 アーサーが胸を張り、拳を胸の階級章に当てた。

(そうだよ。それでいい。歪んだ英雄なんて必要ないんだ……)


「そうそう、それでいいんだって。俺達チャリ乗りはさ!」

「チャリ乗りじゃなくて、パイロットでしょって言われるぞ」


 ウォルフ技師長がフィオナ艦長の口調を真似た。

 アーサーとカーライル中尉が爆笑した。

(懐かしいな。俺らしくはないが二人が笑ってくれて良かった。やっと元通りになれた気がするよ)


「似てねぇよウォルフ技師長! 声が野太いって!」

「久しぶりに笑ったよ。ところで、今まで何をしていたのか教えてくれるよねアラン?」

「俺も気になるぜ!」

「分かった説明する」


 アランは今までの経緯を説明した。


 レイモンドに敗北したアランは、E.G.軍宇宙センターの崩壊に巻き込まれた事で逃れられたのだ。

 ウォルフ技師長に救助された後、廃墟となった宇宙センターで野宿をしていた。

 野宿中の二人を救ったのはさい大佐だった。

 直ぐに宇宙に向かいたかったが、シンセシスー1を失ったアランに戦う力はなかった。

 だからロイド中将が手配していた新型機を受領し、ウォルフ技師長と共に改良してシンセシスー2を完成させたのだ。

 皆を守り、この戦いに終止符を打つためにーー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る