贈賄戦艦

 アランは全力で逃げ始めたイーサンを追いかけた。

(投降してくれ。俺はイーサンを殺したくはない)


「これが機体性能の差だというのか……信じられん! 俺のリベレスティンはチャリム開発の第一人者のギルモア博士が開発したものだ。ファング最強の機体なのに」

「ファング最強か……確かにリベレスティンのスペックは高い。俺のシンセシスー2やカリバーンと同等以上の出力だと思うよ」

「なら、何故?!」

「スペックが高くても、そこに戦士の意志が無いからだ。戦いを知らない学者が理屈だけで開発した機体では、俺のシンセシスー2を超える事は出来ない!」

「そんな精神論で!」

「精神論ではない! 戦士の誇りに寄り添った技術開発。それは数値だけを追いかけただけの機体を凌駕する!」

「俺は負けられない。逃げ切ってみせる!」

「そうはさせない。ここで降伏しろ、イーサン! 戦いを止めるんだ!」

「それは出来ないな。俺は戦功を立てて、ファングを変えなければならない」

「それで世界を変えられるのか? ファングも所詮B.o.D.の下部組織だろう?」

「そんな事、アラン以上に分かっている! それでもファングを掌握出来れば力を手に出来るのだ! 変えて見せるさ。この俺が!」

「力で変えられると思うのは傲慢だ!」

「君だって同じだろう! 俺を圧倒する力を手にしたのは何故だ!」

「俺はもう戦いたくないと思っていた……でも、レイモンドに負けて理解した。何も出来ず、仲間を守れないのはもっと辛い事だと。俺にはやるべきことがある。やり遂げるまで死ねない。仲間を死なせない!」

「その程度の覚悟で! くっ、逃げ切れん……」


 卓越した操縦技術を持つイーサンであっても、破損した機体ではシンセシスー2から逃れる事は出来ない。

 ビィーッ!

(センサーに反応! 援軍か!)

 カメラが検出したチャリムの画像をAIが敵機と判断、シンセシス・ライフルが自動で狙撃する。

 狙撃された敵機がビームを避けて、イーサンのリベレスティンに接近した。

(オート射撃では落ちない。素人ではないな)


「イーサンの旦那! こちらです!」

「何故来た! ジェイク!」

「部下だからに決まってるだろうが! 作戦とはいえ、旦那一人に危険な真似させられっかよ!」

「下がれ!」

「旦那なら心配ないと思って俺だけですが、バリー達はあねさんの援護に向かってます!」

「ジェイク、お前には無理だ!!」

「分かってますよ旦那。でも、時間稼ぎなら!」

「くそぉぉぉぉぉっ!」


 イーサンが叫んだ後、援軍のリベレーンVEが指示した方向へ撤退した。


「目くらましで十分なんだよ! ファングの未来を頼みますよ旦那ぁ!」


 援軍のリベレーンVEのパイロットが叫んだ。

(目くらまし……そういう事か!)

 アランはリベレーンVEのパイロットが何をしようとしているのか気付いた。

 敵の装備で目くらましが出来るのは、腕部と脚部に装備しているミサイルポットのみ。

 発射しても確実に当てられる見込みは無いから、ミサイルを発射せず、そのまま起爆して目くらましをするつもりなのだろう。


「断る。飛べ! シンセシスー2!!」


 アランは敵機に接近してビームブレイドで両腕、両足を斬り離した。

 そして、戦闘機モードに変形して、腕部で敵チャリムの本体を掴み離脱した。

 飛び去った背後で激しい爆発が起きた。

 アランの想像通りミサイルを自爆させたのだろう。

(レーダーに反応がない。イーサンは見失ったか。さて、成り行きで助けてしまったけど、コイツどうしよう……大佐に丸投げするか。アーサーは大丈夫だろうから、カーライル中尉の援護に向かおう)

 アランは敵機を抱えたまま、カーライル中尉が戦闘を行っている宙域へ向かった。


 *


「やべぇ、敵の援軍か!」


 カーライルはリベレスティアの背後から向かってきている3機のチャリムに気付いた。


「姉さーん、迎えに来ましたぜ!」

「誰が姉さんですか! どうして待機指示を守れないの!」

「そうやって怒られるのが癖になったからですかね?」

「そういう言い方してるとイーサンの旦那に怒られまっせ!」

「それで怒ってくれるなら姉さんも報われるんですけどね!」

「いい加減にしてください! 今は戦闘中です!」


 アマンダとの通信から敵機の会話が漏れ聞こえる。


「えーっと、コレってピンチ?」

「調子に乗り過ぎた罰です。ここで死んで頂きます」

「あー、俺死ぬかな。アランもアーサーも間に合わないよな」


 どうやら敵はアマンダを連れ帰る前に、カーライル中尉を撃墜するつもりのようだ。

(やっぱりそうなるよね。4対1の状況で素直に逃げてはくれないよな。キツイ状況だけど頑張りますか!)

 カーライルが覚悟を決めた直後、分厚いビームの帯が敵がいる場所目掛けて何本も打ち込まれた。

 敵機が砲撃の回避に専念しているので、カーライルは敵の攻撃を受けずに済んだ。

(艦砲射撃? E.G.軍の宇宙戦艦は出撃していないのに?!)


「何だ、何だ?! 助かったけど味方の戦艦か?」

「撤退します。あの戦艦を撃沈するには戦力が足りません」


 アマンダが撤退の指示を出し、敵のチャリム部隊が撤退した。


「撃て、撃て、どんどんね! 予算は気にしないでいいよ! そこの緑色、大丈夫かね?」


 謎の戦艦から通信が入った。

 E.G.軍の基本の構造でも、新型のフリージアタイプの構造でもない、見たことがないの形状の紫の戦艦。

(えっと、どちら様でしたっけ? 何て返事すりゃいいんだ?)


「遅いぞ大佐!」


 アランから通信が入った。

(アランが話しかけている。知り合いなのか? 大佐って事はE.G.軍の軍人か?)


「アランが速すぎるだけね。それに大佐だけではどちらの大佐を呼んでるか分からんね」

「同じ大佐でも、ウォルフはウォルフだ。俺が大佐と呼ぶのはさい大佐だけだ」

さい大佐ってState1の基地司令官の?」

「そうだ。カーライル中尉は会った事がなかったな。アーサーも戻って来たから艦内で話をしよう」


 アランのシンセシスー2が謎の戦艦に着艦した。


「ようこそ贈賄戦艦へ。歓迎するよ新しい友よ」


 シンセシスー2に続いて、アルダーン・カスタム、カリバーンが謎の戦艦に着艦した。

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