賄賂の送り主

「さて、今までの経緯も説明したし、大佐のところに案内するよ」

「何でさい司令が基地を離れて来たんだい?」

「理由については本人から聞いてくれ。福山少佐からの伝言も預かってるから」

「福山少佐か……パワーアップした二人なら勝てるんじゃないか?」

「それは難しいな……理由は大佐に聞いてくれ。ウォルフ、アレを頼む」


 アランはシンセシスー2が抱えているリベレーンVEの胴体を指差した。

 思わず自爆しようとした敵兵士を助けてしまったが、敵兵士を艦内に入れたのは危険な行為である。

(ファングの兵士を任せられるのはウォルフ以外にいない。元々ファングに所属していたからな)


「また面倒事を押し付けるのか。少しは老人を労われ」

「ウォルフ以外に頼める相手がいない」

「それは脅しかい? まぁ、いいか。俺以外に話せる奴はいないだろうからな」

「ありがとうウォルフ」


 ウォルフ技師長は嫌そうだったが、敵兵士の相手を引き受けてくれた。

 事情を知らないアーサーとカーライル中尉は、アランが何故ウォルフ技師長に頼むのか分からず不思議そうな顔をしている。

(二人に理由を聞かれなくて良かった。ウォルフが元ファングなのは、俺とウォルフの秘密だからな。さて、今度こそ二人を大佐の元に連れていくとするか)

 アランはアーサーとカーライル中尉を連れてさい大佐の部屋に向かった。


 *


 アランはさい大佐の部屋の前でインターホンを鳴らした。


「二人を連れて来たよ大佐」

「ドアを開けたよ」


 さい大佐から返事があったので、アランはアーサー、カーライル中尉と一緒に入室した。


「お疲れアラン。お二人さんも疲れてるだろうから、自由にくつろいでくれ」


 アランは椅子に座ってくつろいだが、アーサーとカーライル中尉は入口付近で立ったままだった。

 二人の表情から警戒しているのが伺える。


「くつろぐ気分にはなれないです。この戦艦は何ですか? E.G.軍のデータベースに存在しないですよね」

「贈賄戦艦って言ってたけど、不正にお金を受け取っちゃってるヤツで合ってる?」

「合ってるね。この戦艦ブルーベリーはシニチ自身が受け取った賄賂と、他の幹部が受け取った賄賂を押収して作ったね。紫色で可愛いだろ? シニチの趣味ね」

「あの福山少佐が不正をしていただって! それを知っていて放置していたのか! 少佐は何処にいる! 私が問いただす!」


 アーサーが声を荒げる。


「それは出来ないね」

「何故ですか? 彼を庇ってるのですか?」

「シニチは戦死したよ。だから話す事は出来ないね」

「戦死……あの福山少佐が?」

「そうだよ。私を逃がす為に戦って戦死したね」

「堕ちた英雄を断罪しなくて済みましたね。後はさい大佐……貴方がこの不正な戦艦を手放せば解決します」

「それは出来ないね。私達にはなさねばならぬ事がある。その為の力だよ」


 アーサーは戦艦を手放す事を強く迫ったが、さい大佐は力強く断った。

 名実共に最強のパイロットとなたアーサーの気迫は凄い。

 だが、その気迫をはねのける覚悟がさい大佐にはある。


「汚い金で得た力に何の意味がある?」

「汚くても関係ない。だから隠しもしないね。アーサー、君はE.G.の予算を知ってるかね?」

「知らないよ。我々パイロットがE.G.軍の予算を知る機会はないからね」

「私が聞いたのはE.G.軍の予算ではなくE.G.の予算ね」

「何が違う?」

「なぁ、もしかして軍の予算少ないのか?」


 アーサーは興味を持たなかったが、カーライル中尉はさい大佐の言葉が気になったようだ。


「その通りだよ。E.G.の総予算に対して、E.G.軍の予算の配分が少な過ぎる」

「それが何だというのだ? 全ての予算を軍事費に割り振れないのは当然の事だよね。地球全土が経済的に辛いから、軍の予算が少なくても仕方がないと思うけど?」


 アーサーが反論した。

 もしさい大佐の言った事が事実であれば、アース・ガバメント自体が大きな不正をしていた事になる。

 福山少佐の不正を正す処の話ではない。


「本当に仕方ない事だろうか。6年前の大戦時に予算を割いていれば、ファングに完全勝利していた。物資で圧倒出来たのだよ」

「E.G.が予算を減らして、わざと負けようとしたというのか? ありえない!」

「そのあり得ないが起きた。だから、シニチは賄賂をかき集めてでも確かめようとしたね。賄賂を貰ったのに便宜を図らなかったから恨まれる事も多かったけどね」

「便宜を図らなけらば許される事ではない。僕は認めない!」

「認めてもらわなくても問題ないよ。君の承認など最初から求めていない」


 さい大佐冷たく言い放つ。

 普通の兵士であれば怯む程の冷酷さを感じるがが、アーサーは怯まない。


「なら、僕が直接倒して見せる」

「なら、敵だな」

「アラン……何故?」


 アーサーは仲間だと思っていたアランに敵対されて動揺した。


「俺は大佐を支持している。俺もこの戦争に疑念を感じているからだ」

「アランは賄賂に関わる人を嫌ってると思ったけど?」

「嫌う以前に、そもそも興味が無い。だが、今回は別だ」

「何か事情があるのかい?」

「この戦艦を建造する為に使った費用の大半を負担したのは高木敏明。凛の父親だ」

「凛の父親が何故? 仕事を貰う為か?」

「それは考えられない。社長とはいえ、個人が出せる金額ではない。嘘をついているのか?」


 アランは真実を教えたが、カーライル中尉とアーサーには信じられなかったようだ。

(アーサーの言ってる事は分かる。凛の父親が戦艦を建造出来るだけの金を出した事は信じ難い。だが、信じ難くても、それが事実なんだ)


「本当の事ね。Mr.高木はシニチを雇いたがっていた。何をするつもりだったのか分からないけどね。この戦艦もシニチの為に用意されたものだよ」

「俺は大佐と少佐を信じた。アーサー、カーライル中尉。信じるかどうかは福山少佐からメッセージを聞いてから決めて欲しい」

「分かったよアラン」

「俺も見させてもらうぜ」


 福山少佐のメッセージを映す為、さい大佐がモニターの電源を入れた。

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