密林の少年5

「スーを戦艦フリージアへ移送しよう。戦艦内には医療設備がある」

「助かるんすか?」

「分からないが、ここにいるより助かる見込みが高い。ウォルフ達と合流しよう」

「分かったっす」


 アランはノイを連れて、村はずれの空き地に向かった。


「おう、丁度良かった。乗ってみてくれ」


 ノイの機体のコクピットからウォルフ技師長が顔を出した。

 ウォルフと入れ替わりで、ノイが自分の機体に乗り込んだ。

 アラン達が安全の為にノイの機体から離れた後、ノイが自機の腕や足を動かし始めた。

 そして、5分程動かした後にノイは機体から降りた。


「凄いや! 自分の手足みたいに自由に動くよ!」

「当然だ! 使ってる部品に合わせてプログラムを書き換えたからな。俺はE.G.とファング両方の規格の部品を扱えるのさ」


 喜ぶノイに、改造の腕を自慢するウォルフ技師長。

 子供っぽいウォルフ技師長と子供のノイ。

 微笑ましい光景だが、笑っていられる状況ではない。

 ノイの村がテロリストと繋がりがある可能性があるし、カーライル中尉が見当たらない事も気になるからだ。


「カーライル中尉はどうした? 護衛をしていたのではないのか?」

「気になる事があったから調査に行ってもらったよ」

「何を調査しているのか分からないが、早くフリージアに戻った方がいい」

「坊主、村で何かあったのか?」

「この村はテロリストと取引している可能性がある。危険だからノイと妹のスーをフリージアに避難させたい」

「坊主、この村が取引している相手は普通のテロリストではないと思うぞ」


 アランはウォルフ技師長が言っている事の意味が分からなかった。

(テロリストに普通とかあるのか? 良く分からないがウォルフは何かに気づいたのか?)


「普通のテロリストではない? ウォルフ、どういう意味か教えてくれ」

「うむ、修理部品を探す為に、ここの資材置き場を確認させてもらったんだがな、不味い事にE.G.軍の部品が多いのだよ」

「何故だ? E.G.軍の部品が多かったら修理部品が手に入りやすいだろ?」

「アーサーの話を思い出してみろ。ここは第一次宇宙戦争時にファングの部隊が全滅した地だ。撃墜された機体はファング側の方が多いから、拾える部品もファング側が多いハズだろ?」

「ウォルフの言う通りだな。そういう事なら……この村の取引相手がファング側の部品を欲しがっているって事か?」

「その通り。ファング側の部品を欲しがるのは、ファングの機体に精通している存在。それは第一次宇宙戦争時に侵攻してきたファングの残党しか考えられんだろ」

「6年間潜伏していたファングの残党……それが事実なら普通のテロリストより危険だ」

「そういう事じゃ。だからカーライル中尉を調査に行かせた」

「なぁ、アニキ達は何の話をしてるっすか? ファングってなんすか? 初めて聞くけど」


 ノイが戸惑いながら言った。

(ウォルフとの会話に夢中でノイの事を忘れていた。だが、ノイの様子を見る限り、村の住民はファングの事を知らないよいうだ。でも、ノイを完全に信じても良いのだろうか?)

 アランはノイの言った事を半分以上信じている。

 だが、出会ったばかりの相手なので、完全に信じ切る事は出来なかった。

 ファングと敵対している事を知られても大丈夫だろうか?

 その思いがノイの質問に回答する事を躊躇わせた。


「おーい! 不味い事になった! 今すぐ戦闘準備だ!!」


 カーライル中尉が走りながら戻って来た。

 アランはノイの質問に答えなかった気まずさを隠す様に、シンセシスー1に乗り込んだ。

 ノイも戸惑いながら自機に乗り込んでいる。

 ウォルフ技師長もノイの機体に乗り込んだ。

 シンセシスー1に乗り込んだらアランが自由に戦えないからだ。


「ウォルフのおやっさんの読み通りだ。ファングの残党が不足した物資の取引に向かってきている。アラン達が撃墜した奴らの仲間だ!」


 カーライル中尉から通信が入った。


「何機いる?」

「村での聞き取り通りであれば4機だろう。アランの坊主は自分の判断で敵機を撃破してくれ、村の坊主はウォルフ技師長を守ってくれ。戦闘は無理のない範囲で頼む」

「分かった」

「が、頑張るっす!」


 各自、G.D.ジェネレイターを起動させ、機体を立ち上がらせた。

 G.D.ジェネレイターを起動させたので、敵がG.D.ウエイブを検知して攻撃してくるのも時間の問題だろう。

 アランも索敵の為にG.D.ウエイブの観測を始めた。

 戦艦やレーダー機は別だが、チャリム同士なら索敵範囲は殆ど変わらない。

 レーダーがVS2グレードのG.D.ウエイブ4機を観測すると同時に、反応があった4機がこちらに向かって動き出した。

 どうやら敵機もアラン達に気付いたようだ。

(さて、戦闘開始だ! カーライル中尉の情報通りだな。どうやって情報を聞き出したのか戦闘後に聞いてみるとするか)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る