密林の少年4
アランはノイに案内されて村へ向かった。
村はチャリムが隠れる事が出来る程の高木の合間に、隠れる様にひっそりと存在していた。
歴史好きのアーサーの話では、今から120年前に遺伝子操作した高木を植えることで、焼き畑農業で失った森林を生まれ変わらせたとの事であった。
遺伝子操作によって生まれた大きく強い木々。
その下を縫うように建てられた木造のみすぼらしい住居。
枝葉が日差しを遮っているので昼間なのに薄暗い。
普通であれば木々を切り開いて村を作るだろう。
だが、木々に隠れる様に住居を構えているという事は、やましい事がある可能性が高い。
ノイの自宅に向かう途中で何人かの住人とすれ違ったが、貧しい生活を送っている様に見える。
(この村は何故貧しい? ノイはチャリムを所有していた。G.I.N.ダイヤを拾って売れば裕福な生活が送れるハズなのに……)
アランには村の住人が貧しく、ノイが妹の為にお金を稼げるようになりたいと言う理由が分からなかった。
アーサーとノイの話通りであれば、この辺りには第一次宇宙戦争時のチャリムの残骸が多数落ちている。
動力源のG.D.ジェネレイターが故障していても、核となるG.I.Nダイヤは無事なはずである。
工業用のSI2グレードより強力なチャリム用のVS2クラスのG.I.N.ダイヤは非常に高価である。
G.I.Nダイヤ以外のパーツも、一般市民にとっては高級素材の宝庫だ。
軍用の最先端資材は安くない、売れば簡単に稼げる。
それなのに、どう見ても貧しい生活を送っている様に見える。
(何か秘密があるはずだ。後で探ってみるか)
ノイの家に着いたので、考えるのを一旦止めた。
ノイの家は他の住宅よりは豪華であった。
裕福ではないが他の住人よりは稼げているようだ。
ノイに促されて家に入った。
室内を見渡すと隅のベッドに気付いた。
「妹のスーです。最近は寝ている時間が長くて……」
アランの視線に気づいたノイがベッドに寝ている少女を紹介してくれた。
顔はノイに似ているが、生きているのが不思議な程にやせ細っている。
「病院には行ったのか?」
「村に病院なんてないっすよ。栄養のある物を食べさせたいけど、食べるだけの力が無いんすよ……」
ノイが悔しそうな顔でうつむく。
「何故だ? チャリムがあるなら都会の病院に行く事くらい簡単だろう?」
「それをした幼馴染のヴォンは帰ってこなかったっす。所属不明機として撃墜されたんすよ……」
「でも、拾った兵器を販売して生活しているのだろ? 買主の伝手で病院に行く事は出来なかったのか?」
「出来ないんす。拾った部品は全部村長が売ってるっす。買主さんとは直接会った事はないんす」
アランはノイの話の内容から、村が取引している相手を想像した。
姿を現さない取引相手。
不正な価格。
これは正規の取引ではない。
販売先は恐らくテロ組織だろう。
(販売価格に不満があれば価格交渉するだろう。それをしないのは武力で脅されているからだろう)
突如入口のドアが開いて、一人の中年男性が入ってきた。
「む、村長! 突然どうしたっすか?」
「どうしたではない。何故よそ者を招き入れた!」
突然現れた中年男性が声を張り上げた。
(この男が村長か。事情を確認せず、よそ者を排除しようとするか……知られては困る事がある様だな。この場は穏便にやり過ごすか)
「長居はしない。直ぐに出ていく」
「それでいい。余計な事は言うな。黙って去るなら見逃してやる」
「言う通りにするよ。俺も自分の命が大事だ」
「分かっているならよい。身の程をわきまえているのは良い事だ」
村長が満足そうな顔をした後、ノイの家から出て行った。
「ア、アニキ……」
「どうしたノイ?」
「アニキは出ていっちゃうのか?」
「村長に言った通り直ぐに出ていくさ」
「そうっすか……アニキならスーを助けてくれるかもって思ってたんすけど」
「助けないとは言っていない」
「でも!」
「直ぐに出ていくとは言ったが、一人でとは言ってない。スーを病院に連れて行く為に連れ出しても問題ないだろ?」
「ホントっすかアニキ。でも、お金ないっすよ」
「働けよノイ。E.G.軍のパイロットになれば給料が出る」
アランはノイに手を差し出した。
「俺、パイロットになるよ。宜しくアニキ!」
ノイがアランの手を握り返した。
アランはノイとスーの二人を直ぐに連れ出そうと思った。
村長との約束を気にしているのではない。
ノイは出会った時にリベレーンVEを撃墜している。
搭乗している機体がファングの機体だから、勝手に相手がファングと思い込んでいた。
だが、あの時の敵機が、この村の取引相手のテロリストだったら報復に来るかもしれない。
事態は一刻を争う。
(頼むぞウォルフ!)
アランはウォルフが無事に仕事を終えている事を願った。
戦艦フリージアの修理に必要な部品の確保を終えていなければ戻る事が出来ないからだ。
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