密林の少年3

「北に10km行ったところに村がある。そこで部品調達してくる」


 アランはノイの村で部品を調達する事を提案した。

 このまま話していても結論は出ないだろう。

 だから、アランは自分で解決する事にしたのだ。

 皆は知らないが、謎の機体に乗っていた少年、ノイの村なら部品調達が可能だと知っている。

 村にどれだけの資材があるか分からないが、少なくともチャリム一機を稼働させるだけの装備があるから期待できるだろう。


「村? 村に戦艦の修理に必要な部品があるのですか?」


 フィオナ艦長が不思議そうな顔をしている。

 密林にある村に兵器に必要な部品があるというのが想像出来なかったのだろう。


「坊主、それは謎の機体が関わってるのか? あれが北の村にあるなら俺も行っていいか?」


 ウォルフ技師長はノイの機体に興味を持ったようだ。

 今すぐにでも出かけていきそうな勢いでアランの元に駆け寄ってきた。


「落ち着けウォルフ。あの機体は森で拾ったと言っていた。恐らく兵器を拾って生活している村がある」

「そうか……この辺りは第一次宇宙戦争時の激戦区の一つだったからね。アジア方面に侵攻したファングの部隊が敗走して逃げ込んだのがこの辺りの密林だったんだ。そして、この地に残った最後のファングを討伐する為に戦ったのが、僕らも良く知る福山少佐が率いる部隊だったのさ。密林に潜むファングに対して福山少佐が取った作戦はね……」


 アーサーが饒舌に語り始めた。

 いつも通りだが、歴史の話になると話が長くなる。

 福山少佐に戦闘シミュレーションで敗北したアランは、彼の戦闘方法を解析してシンセシスー1に搭載する努力をした。

 だが何を思ったのか、アーサーは福山少佐の戦いの経歴を調べていたようだ。

(アーサーらしいけど、この話を聞き続けなければならないのか?)

 隣ではウォルフ技師長が、いつ出発するのかと急かしている。

 アランはため息をついて項垂れた。


「静粛に! 今から指示を伝えます」


 フィオナ艦長が終わりのないアーサーの会話に終止符を打った。

 そして、皆で艦長の指示を聞いた。

 村に行くのはアラン、ウォルフ技師長、カーライル中尉の3人。

 凛は村に行くメンバーに選ばれず不満だったが、艦長が3人を選んだのには理由がある。

 アランが選ばれたのは現地の住民であるノイと話した事があるからだ。

 未知の村に向かうのだ、知り合いがいた方がスムーズに受け入れてもらえるだろう。

 ウォルフ技師長が選ばれたのは、本人の希望もあるが、修理に必要な部品を探せる人材だからだ。

 そして、カーライル中尉が同行する事になったのは、不測の事態が起きた時の用心棒としてだ。

 軍人であるアラン達を快く思わない住民から襲撃を受けた時にウォルフ技師長を守る必要があるからだ。

 岩山で動けない戦艦フリージアの護衛はアーサー隊が担当する事になった。

 戦艦フリージアにはアーサー達以外にアルダーン3機が搭載されている。

 操縦するのは、ロサンゼルス基地で正規軍に配属になった時に補充された正規のパイロット3名だ。

 今まで友軍の支配地域を航行していたから出番がなかったので、今回が基地を発ってから初の戦闘配備となる。

 初めて一緒に出撃する事になるが、アーサーが隊長なら問題はないだろう。

 アランはコクピット後部の非常用の座席にウォルフ技師長を座らせ、北の村に向かってシンセシスー1を飛び立たせた。

 その後ろにカーライル中尉のアルダーン・カスタムが続いた。

 村が近づいて来た所で、例の機体が現れた。


「来てくれたんすね、アランのアニキ!」


 ノイから通信が入った。


「あぁ、約束したからな。着陸出来る場所はあるか?」

「案内するよ!」

「おいおい、アラン少年。いつの間に弟が出来たんだ?」

「知らん。冷やかすならおいてくぞ!」

「冷たいねぇ。凛ちゃんに言いつけるよ」

「好きにしろ」

「少しは付き合ってよね。折角、息抜き出来るんだからさ!」


 アランはノイに続いて、シンセシスー1を村はずれの空き地に着陸させた。

 カーライル中尉も機体を着地させ、空き地に降り立った。

 初めて対面したノイ。

 身長は120cm位だろうか……想像より小柄だった。

 外で過ごす事が多いのだろう、浅黒く日焼けしている。


「坊主、この機体を見せてくれんか?」


 最初に口を開いたのはウォルフ技師長だった。


「おじさん誰?」

「俺の師匠だ。メカに詳しい。気に入られたら機体の性能を上げてくれるかもしれないぞ」


 ウォルフ技師長の代わりにアランが説明した。


「アランのアニキの師匠なんですか! ぜひお願いするっす!」


 ノイが言い終わる前にウォルフ技師長はコクピットに潜り込んでいた。

(相変わらずせっかちだな……まぁ、ノイの機体や部品についてはウォルフに任せておけばいいか)


「おお、これは竹馬という物ではないか! これで動かせるとは驚きだ!」


 コクピットの中でウォルフ技師長が大声を出している。

 ウォルフ技師長の言った『竹馬』の意味が分からずカーライル中尉が不思議そうな顔をしている。

 だが、アランはウォルフ技師長の言った事の意味を理解している。

 幼少の頃のアランは、コクピットのフットペダルに足が届かなかった。

 その時は40cmもの長さの厚底の靴を自作して対処していた。

 ノイは竹馬で身長の低さを補っていたのだろう。

 このままウォルフ技師長が飽きるのを待っていたら日が暮れる。


「カーライル中尉、ウォルフを任せた!」

「ちょ、俺の方が階級上なんだぜ。命令するなら俺の方だと思わないか?」


 カーライル中尉がウォルフ技師長の面倒を見るのを嫌がった。


「それなら大佐の俺が命令するから黙って護衛しろ!」


 ウォルフ技師長がコクピットから体を乗り出し、不機嫌そうに言った。

 カーライル中尉に厄介者扱いされて怒ったのだろう。


「へっ、大佐?」


 カーライル中尉が思わず間抜けな声を出した。


「新型機の整備班としての立場は技師長だが、E.G.軍内部での正式な階級は大佐だ。兼任という奴だな。俺が大佐だからロサンゼルス基地内で融通が利いただろう?」


 ウォルフ技師長がポケットから油まみれの階級章を取り出した。

 確認すると確かに大佐の階級章だった。


「艦長より階級上じゃないか、いっその事ウォルフ隊に改名するか?」

「やだね。俺は黙ってメカを弄っていたいんだよ。さっさと護衛しろ!」


 渋々、カーライル中尉が護衛に着く事になった。

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