密林の少年2

 アランはシンセシスー1を敵機に向かって急加速させ、ビームソードを振りかぶった。

 敵機がビームソードを抜き、シンセシスー1の攻撃を受けた。

 だが、その動きを予測していたアランは、攻撃を受けられると同時に敵機を蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされて体勢を崩した敵機が、謎の機体の放ったビームに貫かれ爆散した。

 残された敵2機がビームライフルを乱射してきたので、降下して密林に機体を隠した。

 多い茂る木々に視界を遮られ、無駄にビームライフルを乱射する敵機。

(実践なれしていないな。カメラに頼り過ぎだ)

 アランはメインカメラからG.D.ウエイブの観測に切り替え、敵機の動きを観測した。

 そして、敵機の動きの癖を解析し、飛行ルートに合わせて狙撃した。

 上空から爆音が聞こえた。

(排除完了。残り1機だな)

 上空から最後の1機がシンセシスー1の目の前に降下してきた。

 ビームの射角からアランの所在を突き止めたのだろう。

 だが、それ以上敵機が動く事は無かった。

 腹部から突き出ているビームの刃が原因だ。

 動作を止め、崩れ落ちるリベレーンVEの背後から謎の機体が現れた。

 謎の機体はアランがG.D.ウエイブを観測している時に反応が消えていた。

 恐らく、不意打ちをする為にG.D.ジェネレイターを停止して潜伏していたのだろう。

 謎の機体のパイロトは密林での不意打ち慣れしているようだ。

(さて、戦うとなると厄介だな。どう出る?)

 アランは目の前の謎の機体に対して、どう対処すべきか考えたがーー


「凄いっすね。どうやって当てたんですか?」


 謎の機体に乗る少年から通信が入った。


「コツがあるんだよ。君はどこの所属だ? 何故チャリムに乗っている?」

「所属? ここから10km北にある村に住んでますけど? ところでチャリムってなんすか?」


 謎の少年の答えはアランにとって意外であった。

(自分で操縦しているのに、何故チャリムを知らない?)


「今乗っているだろ? 何故嘘をつく?」

「えっ、これってそんな名前だったの?」

「知らないで乗っているのか? 誰から手に入れた?」

「誰からって? 森の中に落ちてるよ。うまくつなぎ合わせると動くようになるんだ」


 アランは謎の少年がどういう存在か理解し始めた。

 この少年は軍属ではない。

 戦場に落ちている電子部品や兵器を拾って、売りに出す事で生計を立てているのだろう。

 乗っているチャリムも、E.G.とファングの部品を拾い集めて改造した様な外観をしている。

 比較的損傷が少なかった機体を拾って、独自に部品を集めて修理したのだろう。

 以前ジャンク屋を営み、自分で奪った機体を改造していたアランに近い存在といえる。

 それなら戦う必要はない。


「そうか、教えてくれて有難う。仲間が心配だから戻るよ」

「そうっすよね。仲間は大事っす。仲間が無事だったら、僕の村に遊びに来てくださいよ」

「何故だ?」

「戦い方が凄かったからっすよ! 僕も強くなりたい!」

「何故強くなりたい?」

「病弱な妹がいるんすよ。稼げるカッコイイ兄になりたいんだ」

「そうか、考えておくよ。俺はアランだ」

「アランのアニキっすね。僕はノイって呼ばれてるっす」

「ノイか……覚えておくよ」


 アランはシンセシスー1を戦艦フリージアが避難した岩山に向けて飛翔させた。


 *



 戦艦フリージアのブリッジでは、今後の対応について話し合われていた。


「チャリム部隊は整備を終えて出撃可能だ。だが、メインスラスターは駄目だ。修理に必要な部品が足りん」


 頼みのウォルフ技師長が修理不可能と言った事で、ブリッジクルー達が落胆する。


「スコット、ここが何処か分かる?」

「うーん、ベトナムかラオスか……多分ラオスじゃないですかね」


 フィオナ艦長の問いかけにスコットが曖昧に答えた。

 スコットが曖昧な答えをしたのには理由がある。

 IC22年現在では、人工衛星を用いた位置情報の特定が出来ないからだ。

 かつて、一般市民ですら簡単に位置情報サービスの利用を可能にした無数の人工衛星は、第一次宇宙戦争時にスペースデブリの仲間入りをしていたからだ。


「フィオナちゃん、俺がデリバリーしよっか?」


 カーライル中尉が軽い口調で提案した。


「簡単に言わないで下さい。ここから友軍基地までは距離があります。それに正確な位置情報が分からなけらば、戻ってくる事も難しいでしょ」

「大丈夫、大丈夫。俺がフィオナちゃんの居場所を見失うハズないでしょ」

「そうですか。それなら貴方の目の前から姿を消しても構いませんよね? 簡単に見つけられるようですから」

「どうして酷い事言うかな~」


 パン、パン!


「さて、オリヴァーさんは放置して真剣に考えましょうか」


 アーサーが手を叩き、カーライル中尉とフィオナ艦長の会話を終わらせた。


「ちょっとアーサー、隊長の俺を蔑ろにしないでよ」

「隊長は僕に代わりましたよオリヴァーさん!」

「やだねぇ。アーサー偉くなっちゃってさ!」

「アーサーは元々偉かったでしょ。王様なんだから」


 凛まで話に加わり、更に収拾がつかなくなった。

(緊急事態だというのに、何をやっているんだ……)

 アランは飽きれると同時に、初めて出会った時を思い出して懐かしさを感じていた。

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