赤髪の青年5
敵が視認出来た所で、ジョナサン機が人型形態に変形して、敵機目掛けて走りだす。
アランも人型形態に変形した後、停止して主砲で上空に狙いをつけた。
ジョナサン機がスタンロッドで敵機に殴りかかったと同時に、アランが主砲を放つ。
敵のアルダーンはジョナサンの攻撃を上空に飛んで避けようとしたが、アランの主砲の直撃を受けて落下した。
『くそっ、ポンコツ野郎が!』
仲間を撃墜された敵が怒りの声を上げた。
ジョナサン機の両脇に居たアルダーン2機が、ビームソードで斬りかかる。
(一人で突出し過ぎなんだよ!)
アランはジョナサンが撃墜されると思い焦った。
だが、ジョナサン機は迷いなく左の敵機に向かって踏み込んだ。
そして、頭部の砲塔を旋回させて、ビームソードを手にした腕を払いのけて、背後に向けた砲塔でもう一機の敵を砲撃した。
アランは慌てて、ジョナサンが砲撃した敵機を砲撃して止めを刺す。
砲撃が終わった時には、ジョナサンはスタンロッドでもう一機の敵を行動不能にしていた。
後は敵の隊長機のみ。
敵の隊長機は空中からビームライフルで攻撃してきた。
空中戦なら、機動性が低く空を飛べないティガー・ロウより有利と考えたのだろう。
空中を飛び回られたら接近戦は出来ない、だが砲撃は届く。
ジョナサン機が砲撃すると、敵隊長機が華麗に回避した。
空中戦に自信があるのだろう。
だが、こちらは一人ではない。
ジョナサン機が砲撃した直後に、アランが敵機の動きを予測して偏差射撃をする。
(動きが単調なんだよ!)
アランが放った砲弾に吸い込まれる様に、敵機が弾丸の射線上に重なった。
墜落する敵隊長機のアルダーンにジョナサン機がマシンガンで追撃した。
これでE.G.の名を騙った敵は全て撃墜出来た。
後は……
アランは最後の敵にスタンロッドを打ち付けた。
だが、相手も同じ思いだったようだ。
激しくぶつかり合う二本のスタンロッド。
「通信とは大分違う印象だったな! イーサン・アークライトォォォォォ!」
「アーサーではない……まがい物の方のパイロットだったのかアレン!」
「まがい物とは心外だな。俺はアラン・バークス。シンセシスー1のパイロットだ!」
アランは自身の鈍さを恥じた。
通信機を通して聞いた声と、実際に会って聞いた声が違って聞こえる事は仕方がない。
だが、ジョナサンがの操縦技術を見るまで、彼が宿敵であるイーサン・アークライトと気付かなかったのは鈍すぎる。
彼の話をシッカリ聞いていれば、気付く切っ掛けはあったはずだ。
「アレン……いや、アラン。君も偽名だったとはね。でも名乗って良かったのかね?」
「問題ないさ。ここで撃墜するからな!」
「それは大した自信だ。偽名のセンスは互角だったが、戦闘のセンスはどうかな?」
アランは焦る。
認めたくはないが、アランの実力はイーサンより劣る。
自己流で操縦を学び、傭兵まがいの事はした事はあるが、本格的なチャリム戦闘の経験は少ない。
軍人として訓練を受けて、実践豊富なイーサンとは違うのだ。
そして、今は武装の差が無い。
今まで対抗出来ていたのは、ウォルフ技師長と戦略を練って武装を換装していたからだ。
実力不足を装備とアイデアで補う事は出来ない。
アランは徐々に追い込まれていく。
徐々に追い込まれている状況なのは、イーサンが手加減しているからだ。
彼が周囲の建物に損害が出ない様に手加減をしているのが分かる。
周囲の損害を気にしていなければ、とっくに撃墜されていただろう。
アランが乗るティガー・ロウがバランスを崩して倒れた。
(失敗したな……助けは来ない。俺はここまでだが、凛は無事にフリージアに戻れるといいな)
諦めたアランはハッチを開けて地面に降り立った。
そして、イーサンが乗るティガー・ロウを見上げた。
(これが俺の最後か……あっけないものだな)
だが、イーサンは攻撃してこなかった。
突如、ティガー・ロウのハッチが開いてイーサンが顔を出した。
「死ぬ前に言い残す事はあるか?」
「両親を殺したファングを滅ぼしたかった。それだけが心残りだ」
死ぬ前に言い残す事。
アランにはファングを滅ぼす事しか思いつかなかった。
普通なら命乞いでもするのだろうか……
ファングの司令官であるイーサンに、ファングを滅ぼすと言うのは愚かな事だと思う。
(俺はイーサンの機嫌を損ねて死ぬのだろうか……でも、他に言うべき事が思い当たらない……)
「アランは本心を語ってくれていたのだな。俺も……俺も嘘はついていない。俺は宇宙とか地球とか関係なく、この島の様に平和な世界を望んでいる」
「そうか、それなら安心して死ねるよ。イーサン、俺の様な孤児を生まない世界を作ってくれ……」
アランは静かに目を閉じた。
この二日間でイーサンという男を知れた。
イーサンが望む世界が実現出来るか分からない。
だが、彼が進む未来は悪いものではないだろう。
(最初は間抜けな指揮官だと馬鹿にしていたのにな……最後にお前を知れて良かったよ。さようならイーサン。さようならフリージア隊のみんな)
アランはイーサンに撃たれる事を想像していたが、聞こえた音は銃撃の音では無かった。
目を開けるとイーサンが乗ったティガー・ロウが去っていくのが見えた。
(俺を殺さなかっただと?! 俺はお前の仲間を殺した敵軍のパイロットなのに……)
アランには立ち尽くす事しか出来なかったーー
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