正反対な二人

 アランはイーサンを見送った後、警察署に凛を迎えに行った。

 堂々と殴り込みをかけたイーサンと違って、騒ぎに便乗して忍び込んだアランは、警察署所有のチャリムを盗んだ犯人とは気づかれていなかった。

 だから無事に凛と再会する事が出来た。

 凛はアラン達と別れた後、警察署で所属を明かし、本物のE.G.軍であるフリージア隊に救援を要請していた。

 凛からの要請を受けた戦艦フリージアは出航して、こちらに向かっている。

 フリージア隊が到着したら、ハワイから旅立つ事になるだろう。

 この地に居られるのは後少しの間だけ。

 アランは戦艦フリージアを待つ間、最初にジョナサンと話をした公園で過ごす事にした。


「ねぇ、ジョナサンは行ったの?」


 公園のベンチに座ると同時に、凛がアランに問いかけた。


「あぁ、行ったよ。故郷に帰ったんじゃないかな」

「断言しないなんて珍しいわね。別れは言えたの?」

「言ってない」

「別れを言わなかったのは、また会おうって意味?」

「いや、もう二度と会う事は無いと思いたい……」

「変な言い方するのね。二度と会わないなら、別れを言えば良かったのに」

「それは言えない」

「どうしてなの?」

「戦場で別れを言う相手は、死にゆくものだけだからだ。仲良くさようなら、また会おうって事にはならないのさ」

「ジョナサンがファングだから?」


 凛の口からファングの名が出た。

 凛はジョナサンがイーサン・アークライトである事は知らない。

 だが、警察署でチャリムを奪取した手際をみて、彼が普通では無い事を感じていたのだろう。

 だから、ジョナサンがファングの兵士だと思ったのだろう。

 それでも、敢えて凛に問う。


「何故そう思う?」

「ジョナサンは警察署で銃撃を掻い潜ってチャリムを奪取していた。ブラック・ダンデライオン出身で、それが出来るのはファングの兵士だけだよね?」


 凛は何の迷いもなくアランに言った。

 それは当然の事と言える。

 イーサンは訓練を受けた軍人としての実力を示したのだ。

 ジョナサンがイーサンであった事は隠せても、ファングの兵士である事を誤魔化す事は出来そうもない。


「そうだな……一般人に出来る芸当ではない」

「ねぇ、もしもジョナサンと戦場で再会したら、アランは撃てるの?」

「撃てる」

「ジョナサンがファングだから?」

「そうだ。俺はファングを壊滅させる。相手が誰であってもな」


 アランは決意を口に出した。

 凛に伝える為だけではない。

 迷いを感じ始めている自分自身に言い聞かせる為に。


「だからジョナサンと再会したくないの?」

「何故そう思う?」

「また言った。アランが分かり易いだけよ。本当はファングの全員が悪人じゃないって分かっているんでしょ?」

「そんな事は分かっている。それでもファングは侵略軍だ! 先に戦争を起こしたのは奴らだ!」

「E.G.がブラック・ダンデライオンで生活している人達の自治権を認めず、食料の輸出も停止して餓死させていても?」


 凛の言葉で、イーサンが語ったブラック・ダンデライオンの実情を思い出す。

 食料難で餓死する人々。

 生きる為にファングに所属する人々。

 どちらも死地に立つ事に変わりはない。

 E.G.の圧力によって、過酷な環境での生活を強いられている人々を知った。

 それでも、アランにとってファングは敵である事には変わりがない。


「なら、凛はファングの味方をするのか?」

「しないわね。私はアランやアーサー達の味方だから」

「そんな小さな理由でE.G.軍に所属したのか?」

「そうよ。小さい理由だから大きな過ちを犯さない。大きな望みは、大きな過ちを生み出すから」

「何故そう言える?」

「国家間の争いをなくすために生まれた世界統一政府、アースガバメントの樹立は宇宙の民との対立という過ちを生み出した。対立するブーケ・オブ・ダンデライオンは、E.G.から地球圏を開放すると戦争を起こし、アランの家族を含む多くの人の命を奪ったでしょ。理想を謳いながら過ちだらけよね」

「過ちだらけでも止まる事は出来ない」

「止まれるわよ。傍にいる大切な人から目を背けなければ。余計な思想に染まって、目の前の生活を疎かにするから人は過ちを犯すの」


 アランにも凛の言いたい事が理解出来る。

 それでもアランは止まれない。

 ファングに両親を奪われたあの日に願ったのだから。

 理不尽な奴らを殺戮する圧倒的な力と、二度と大切なものを手にしない事を……


「それでも俺はファングを壊滅させる。それだけが俺が生きている理由だ。間違っているかなんて、俺には関係ない」

「正反対ね、私達……」


 凛が悲しそうな声で言った。


「それでいい。俺と同じ人生を歩む奴なんて居なくていいんだ……」


 アランは凛の悲しそうな声に合わせて静かに呟いた。

(戦争で不幸になるのは俺だけで十分だ。凛は俺と違っていていんだよ……)

 その後、戦艦フリージアが到着して、カーライル中尉が迎えに来るまで、互いに一言も発さなかったーー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る