赤髪の青年4

 ダイヤモンドヘッドを下山したアラン達は、EVをレンタルして動物園に向かった。


「ねぇ、ジョナサンがゴリラが苦手だって分かったけど、好きな動物はいるの?」

「俺はライオンが好きなんだ」

「ブラック・ダンデライオン出身だからか?」

「そうだよ。故郷の名前の元になった動物だからね」


 彼の故郷である宇宙の人工大地ブラック・ダンデライオンは、緊急時に居住区を分離する構造が、綿毛を飛ばすタンポポに似ている事から名付けられている。

 そしてダンデライオンとは、ギザギザの葉が獅子の牙に似ているからついた名前だ。

 彼らの私設軍隊がファングという名前なのも獅子の牙が由来だ。

 名前の由来となってはいるが、ブラック・ダンデライオンにライオンはいない。

 過酷な環境である宇宙では、食用の家畜以外の動物はいないからだ。

 だから、ライオンに特別な思いがあるのだろう。

 入園して直ぐ、ライオンがいるサバンナゾーンに向かった。

 ジョナサンが最初にライオンを見たいと言ったからだ。

 ライオンは丁度くつろいでいる所だった。

 動き回っていないから見やすいが、ジョナサンは少し不満の様だ。


「牙が見えない……」

「口を閉じていれば見えないさ」

「実物を見たかったんだけどな」

「間抜け面を見せられるより良いと思うけどな」

「あくびしたら見えるわよ」

「本当か?!」


 ジョナサンが喜びの声を上げた。


「そんなに都合よくあくびするか?」

「しないならさせるだけよ。ほらっ、ジョナサンもあくびして!」


 凛があくびをするのを見て、ジョナサンもあくびをする。

(人間じゃないんだから、つられてあくびしないだろ? あっ!?)

 凛達につられたのか分からないが、ライオンがあくびをした。

 大きく開かれた口から見える立派な牙。

 それを満足そうに眺めるジョナサン。


『市街地がE.G.軍を名乗るチャリムの攻撃を受けています。至急、シェルターに避難して下さい』


 突如、園内に緊急放送が流れた。

(E.G.軍が攻撃だと? ハワイにフリージア隊以外のE.G.軍はいない……E.G.軍を騙ったテロリストか!)


「避難する。俺の後に続け」


 ジョナサンが鋭い声で言った後、走り出した。

 彼がどうするつもりなのか分からないが、一人にさせる事も出来ない。

 アランは凛と一緒にジョナサンを追いかけた。


「どうして毎回動物園に行ってる時に襲撃されるのよ!」


 凛が文句を言ったが仕方がない。

 今は戦時中なのだ。

 いつファングとの戦闘が起きるか分からないし、今回の様に戦争に便乗してテロを起こす輩もいる。

 全員がEVに乗り込んだのを確認した後、ジョナサンがアクセルを全開にした。

 走行ルートから推測すると、ジョナサンが緊急放送の指示通り、シェルターに向かっているのは間違いない。

(テロリストを放置するのは不愉快だが、シェルターに向かっているなら問題ない。後はジョナサンの運転に任せるか)

 シェルターに向かう途中の市街地で、E.G.軍のアルダーン4機と警察側のティガー・ロウが交戦している現場に遭遇した。

 警察側の方が機体数が多く、頑張って反撃しているが、徐々に追い込まれ次々に撃墜されている。

 流れ弾で住居や道路が次々に破壊されていく。

 シェルターへ向かう道路も陥没して走行不可能となっている。


『宇宙の脅威と戦わない中立都市は罪だ! この地は我らE.G.が支配する!』


 隊長機と思われるアルダーンが、永世中立都市群であるハワイを占領する事を宣言している。

 それは不当な行いだが、警察組織では敵の戦力に対抗出来ていない。

 フリージア隊がいるハワイ島は遠い。

 救援を要請しても手遅れだろう。


「このままでは、あのテロリストを自由にさせてしまう。巻き込んでしまうのは申し訳ないが、一緒について来てほしい」


 ジョナサンが言った。

 あのテロリストと……

 一般人であれば、E.G.軍を名乗り、正式採用機であるアルダーンに乗っている相手をテロリストと即座に断定出来ない。

(ジョナサン……君は……)

 ジョナサンは進路をシェルターから警察署に変更した。

 そして警察署についた所で、EVを格納庫に突撃させた。

 シャッターを突き破った直後、ジョナサンがEVを降りて走り出す。

 アランは凛に警察に保護してもらうように伝えて、ジョナサンを追った。


「なんだ、お前達は!」


 バキッ!

 ジョナサンが問いかける警察官を殴り倒しながら走る。

 警察たちは不審者であるジョナサンに向かって発砲したが、近くの警察官を蹴り飛ばし宙を舞って銃弾を避けた。

 そして、出撃準備中のティガー・ロウの脚部を駆け上がり、コクピットに滑り込んだ。

 警察官たちは銃撃を続けたが、ハッチを閉じたティガー・ロウに拳銃の弾は通じない。

 アランは、警察官達がジョナサンに気を取られている隙に、別のティガー・ロウに乗り込んだ。

 アランはティガー・ロウを操縦した事はない。

 だが、アイオワ州での戦闘時に装備の概要を得ている。

 手早く起動して、ジョナサン機と通信を繋げる。


「ジョナサン、動けるか?」

「問題ない。奴らは俺がやる。援護出来るか?」


 通信機から聞こえた声を聴いて、アランはある事を確信した。

(ジョナサン……そうか、そうなんだな……)

 だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。


「奴らを撃墜する事を援護と呼ぶなら可能だな」

「それは頼もしい」


 戦車形態のティガー・ロウ2機で走行し、敵機のアルダーンと警察のティガー・ロウが戦闘している市街地に向かった。

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