赤髪の青年3

 ジョナサンと意気投合したアランは、オアフ島で一緒に観光する約束をした。

 ハワイ島に停泊している戦艦フリージアが出航するのは明後日。

 アランがジョナサンと会えるのは明日の一日だけしかない。

 翌日、待ち合わせ場所である、ダイヤモンドヘッドの麓に集合した。


「よし、全員揃ったな。これから登山とやらをするけど準備は大丈夫か?」


 ジョナサンが登山の準備が出来ているか確認する。

 アランは普段から運動しやすい恰好を心掛けているから問題ない。

 凛も運動するのに問題ない恰好をしている。

 お洒落に興味がないようで、普段から動きやすい恰好をしている。

 凛は普段ジャージでいる事が多いし、スカートを履いている所は見たことが無い。

 出会った場所はデロイトのスラム街であったし、ファングとの戦争に巻き込まれたから動きやすい恰好を選んでいるのだろう。

 服装に興味が無いアランは気に留めなかった。

 それよりジョナサンの言い方が気になった。


「登山とやらとはなんだ?」

「いや、登山というものをした事がないのでな」

「ならどうしてダイヤモンドヘッドを登ろうと言い出したの? 有名な観光スポットだから?」


 凛が不思議そうに問いかけた。


「名前にダイヤモンドってついてるから凄いのかと思った! だって、G.I.N.ダイヤモンドと同じダイヤモンドだろ。見つけたら拾ってもいいのか?」


 ジョナサンが嬉しそうに言った。

(G.I.Nダイヤモンドか……それで喜ぶのは科学者かエネルギー産業に関わる人だけだろ。変わった奴だな。しかも間違っている。ダイヤモンドヘッドにダイヤモンドは落ちていない)

 アランはジョナサンの勘違いを訂正する事にした。


「残念ながら本物のダイヤモンドはないのさ。勘違いでついた名前だ。当然だが、ダイヤモンドは落ちていない」

「なんだって! なら、何で過ちを訂正しないのだ?」

「さぁ、景色がダイヤモンドの様にキレイだからじゃないか?」

「ぷっ、何言ってるの。気障な事言うキャラでしたっけ?」

、気障な事言うキャラとはなんだ? 俺はジョナサンの疑問に答えただけだ」


 凛がアランの事を偽名で呼んだ。

 昨日、戦艦フリージアに帰還した後に練習したお陰で、お互いに偽名を間違えずに使えている。

 アランをアレンと呼ぶのは言い間違えやすいし、凛と"みぃちゃん"をあべこべに呼ぶのも混乱する。


「良く分からないけど、景色に期待しようか。一気に行くぞ!」


 そう言って、ジョナサンがグイグイ登り始めた。

 ジョナサンが途中で立ち止まらないので、30分程度で一気に頂上まで登り切ってしまった。

(頂上以外も景色は綺麗なんだけどな。事前に言っておけば良かったか)


「おぉ、確かに凄い景色だな。これがアレンがダイヤモンドの様だと思っている景色か!」

「俺が思っているとは言っていないぞ」

「思ってるから言ったんでしょ。動物園見えるかな~」

「動物園?!」


 凛が何気なく言った『動物園』に、ジョナサンが過剰に反応した。


「近くに動物園があるのよ。前に動物園に行けなかったから気になって。ジョナサンは動物園好き?」

「ゴリ何とかって奴がいなければ大丈夫だ……」


 ジョナサンが嫌そうに言った。


「ゴリ何とかってゴリラの事? 大人しくて可愛いじゃない?」

「近いと怖ぇんだよアイツら!」

「残念ながら、ここの動物園にゴリラはいない様だな」


 アランは携帯端末で検索した結果を伝えた。

(サルやチンパンジーはゴリラじゃないから大丈夫だよな……)

 ジョナサンがゴリラが苦手な理由を知らないので悩む。

 だが、ジョナサンはゴリラがいないと聞いただけで乗り気の様だ。

(ゴリラは凛の言う通り大人しくて俺も好きだ。幼少期にトラウマになるような出来事でもあったのだろうな)


「それなら午後に行ってもいいぜ!」

「登ったばかりなのに、もう次の場所の話か。あまり楽しくはなかったか?」

「楽しかったよ。ブラック・ダンデライオンでは、生活に必要な施設が整然と並んでいるだけだからね。想像通りの景色しかないんだ……」

「それは良かった。ゆっくり堪能してから降りようか?」

「いや、急ごう。ここも良かったけど、色々な場所を見ておきたい」

「その様子だと、近いうちに宇宙に帰るのか?」

「あぁ、不本意だがな。いつまでも親父に反発している訳にはいかない」

「そうか……戦争中のブラック・ダンデライオンに戻るのは危険だが、家族がいるなら行った方がいいさ」

「そうだな……早く動物園に向かおうか。みぃちゃんのご要望だからな」


 みゅ~ん。

 凛の肩に乗る本物の”みぃちゃん”が鳴いた。

(今のはお前じゃない……と言っても無意味か。でも、みぃちゃんがタイミングよく鳴いても、ジョナサンは気づかないだろうから大丈夫か)


 時間が無いのはアラン達も同じだ。

 明日、戦艦フリージアが出航したら、二度とこの地を踏む事は無いかもしれない。

 少し名残惜しかったが、3人で下山して動物園に向かった。

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