裏切りのアラン4

 アーサーはフィオナ艦長と一緒に、独房に入れられたカーライル中尉と面会をしていた。


「なぁ、アーサー。俺のせいでアイツは変わっちまったのかな……」


 独房に入れられたカーライル中尉が力なくつぶやいた。


「オリヴァーさんのせいではないですよ」

「なら、誰のせいなんだ……」

「私のせいかな……私は何も行動出来なかった」


 フィオナ艦長が小声で呟いた。

 カーライル中尉を締め上げて、独房送りを指示したのは、仲間だと思っていた少年、アランだったのだ。

 しかも、アランが味方をした相手は極悪非道なロイド中将。

 艦長がショックで行動出来なくても仕方がない。


「アーサーも俺を軽蔑してるか?」

「少しは軽蔑してるかな。オリヴァーさんは軽薄な男ですからね。でも、これだけは言えます。オリヴァーさんは他者を傷つけて喜ぶ人ではないです。たまにイラっとしますけど、悪い人じゃないんですよ」


 アーサーは堂々と言った。


「アーサー……」

「僕の近所の悪いお兄さんは、そんなに悪いお兄さんではないですよ」

「でも、アランは……」

「危険ですね」


 アーサーはアランに対して感じた事を一言で伝えた。

 今のアランは「危険」だ。

 理由を明確に説明に出来ないが、この直感は間違いないと確信している。


「危険?」

「危険ってどういう事なの?」

「僕にはアランが欲にかられてロイド中将に従ったようには見えない。もっと危険なものを感じるんだ」

「危険なもの? 何を根拠に言っているんだ? 俺にはロイドと仲良くして、俺達を裏切った様にしかみえねぇ」


 アーサーは悩んだ。

(僕は直感で「危険」と感じたが二人には伝わらないか……どうすれば分かってもらえるのかな……)

 少し悩んだ後、妙案が思い浮かんだ。


「王の勘ですよ」

「お、王の勘てなによ?」

「そ、そうだぞ、この緊急事態に何を言っている?」


 カーライル中尉とフィオナ艦長が動揺する。

(あれっ、想定外の反応だ。誤解されるといけないから、シッカリ理由を説明しよう)


「こういう場合、女の勘と言ったりするんだろうけど、僕は男性なので王の勘です」

「男の勘でいいだろ、そこは!」

「そうよ。あれだけ英雄や王扱いを嫌がっていたのに、急にどうしたの?」


 カーライル中尉とフィオナ艦長が、二人揃ってアーサーに突っ込みをいれる。

(よしっ、いつもの夫婦漫才感が出て来た。オリヴァーさん、少し元気出たみたいだね。さて、もう一声いきますか!)


「男の勘だと、女の勘より鈍そうじゃないですか。だから、王の勘の方が当たりそうでしょ?」

「悩んでるのが馬鹿らしくなってきたな」

「そうね。アーサーは本当にアーサーですね」

「艦長でも意味の分からない事を言うのですね。それでは、オリヴァーさんが元気になったみたいなので出撃準備してきますよ」

「なぁ、アランの事頼んでもいいか? 情けない俺の代わりに……」

「とっくに頼まれてますよ。アランの世話役」


 アーサーはフィオナ艦長と共に戦艦フリージアへ向かった。


 *


 ファングの軍勢がカリフォルニア州に侵入したとの情報が入り、友軍が出撃を始めた。

 戦艦フリージアも出撃を開始する。

 アーサーはカリバーンに搭乗してカタパルトに機体をセットした。

 凛から通信が入る。


『カーライル中尉がいないけど、アーサーさん大丈夫ですか?』

「心配ないよ凛ちゃん。僕が全て守ってみせる! アーサー・グリント。カリバーン出撃する!」


 カタパルトで射出された後、友軍の先頭を飛行する。

 最前線に向かうのがロイド中将の指示だからではない、アーサーが部隊のエースだからだ。


『えっ、とアランーー』

「出るぞ!」


 アランのシンセシスー1が出撃し、カリバーンの後に続いた。

(凛ちゃんの通信を無視して出撃したか……アランの目的はなんだ)

 アーサーはアランの行動の意味を推測したが、突如鳴り響いたアラームに思考を遮られた。

 司令部から全軍に通信が入った。


『偉大なE.G.の兵士諸君。私はロサンゼルス基地の司令官、ロイド中将である。非道なファングを打倒する為に私も自ら立ち上がった! 世界の安寧の為、奴らの侵攻を阻止するのだ!』


 アーサーはロイド中将の演説を聞いて苦笑する。

(演説では僕って言わないんだな……非道なファングって皮肉が効いてるね。アランはどんな気持ちで聞いてるのかな)

 そう思いながらシンセシスー1をモニターに映した。

 モニターに映ったシンセシスー1は、何故か蛇行しながら飛行している。

(マシントラブルか? シンセシスー1の挙動がおかしい)


「ロイド中将。機体が言う事をきかない。機体に細工されたようだ」

「なんだと、大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。コントロールが難しいが墜落は避けられそうだ。だが、基地に帰還する事になる」

「味方の機体に細工するとは……卑劣な真似を。アラン直ぐに基地へ戻れ。ふざけた真似をした整備員は後で直々に処分してくれる!」

「役に立てなくて済まない……ご武運を!」


 アランが基地へ帰還を始めた。

(何故秘密回線で会話しなかった? これがロイド中将の策略か? でも、想定外だった様にも感じた。どうすべきか……)

 色々と腑に落ちないが、これでアランが戦闘に巻き込まれる事はない。

 ロイド中将の策略は気になるが、これで気兼ねなく戦える。

(僕は自分に出来る事をするよ。僕が敵を倒して英雄になる!)

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