裏切りのアラン5

 友軍の先頭を飛行していたアーサーは、ファングの侵攻部隊と接敵した。

 ファングの侵攻部隊の先頭を飛行していたのは、初めて見る赤の機体と紫の機体。

(イーサンと副官か!)

 アーサーは赤い新型機を操縦しているのは、敵の指揮官であるイーサン・アークライトであると判断した。


「イーサン・アークライトォォォォッ!」

「今日こそ落とす! 銀色ォォォォォ!」


 示し合わせてはいない。

 だが、互いに通信が繋がると確信していた。

 アーサーはカリバーンのメインウェポン、トライ・レジェンズのソードモードで切りかかったが、イーサン機がビームアックスで薙ぎ払った。

(トライ・レジェンズの高出力ソードをパワーで薙ぎ払った!? 格闘性能が高い……接近戦用の機体か! それなら距離を開けるだけだ!)

 アーサーはイーサン機から距離を取ろうとするが逃げ切れない。

 イーサン機が放ったビームショットガンが機体を掠める。

(致命傷にはならないが装甲が削られる。どうすればいい?)

 アーサーはイーサンに勝つための方法を思案する。

 ビームショットガンの射程外まで離れる事が出来れば、攻撃が当たるかどうかは別として、一方的に攻撃する事が出来る。

 だが、イーサンの新型機の機動性はカリバーンに匹敵する。

 イーサンは射程外へ逃げる事を見逃してくれるような甘い相手ではない。

 完全に距離を開けられなくても、中距離で戦う事は出来る。

 その場合は、ビームショットガンの広範囲攻撃で装甲を削られ、いずれ致命的な損傷を受けるだろう。

 それなら接近戦しかない。

 高威力のビームアックスと格闘戦が得意なイーサンの組み合わせ。

 圧倒的に不利な状況である。

 イーサンが得意な接近戦をカリバーンに強いる事が出来る新型チャリムの性能。

 開発者は実戦を知っており、パイロットの特技を生かせる開発が出来る優秀な人物なのだろう。

 アーサーにとって救いなのは、イーサンの動きが鈍く、副官が攻撃してこない事だった。

(何故遠慮しているんだ……違う! 遠慮ではなく、警戒している!)


「緑のヤツとまがい物はどうした? 潜んで奇襲でも狙ってるのか?」


 イーサンからの通信がアーサーの考えを肯定する。

 どうやらイーサンはカーライル中尉とアランがいないのが気になる様だ。

 二人が奇襲を狙っていると誤解を続けてくれれば有利に戦えるかもしれない。


「あいにくですが、君の相手をする暇がないんですよ! 他にやる事があるんでね!」

「なんだそれは! 訳の分からない事を! お前一人で俺に勝てる訳ないだろ!!」

「勝つよ。僕のカリバーンがお前を倒す!」

「既に知ってるだろう。俺がイーサン・アークライト。誇り高き第一艦隊の司令官だ! このリベレスティンで今日こそお前を落とす。名乗れ、カリバーンのパイロット!」

「僕はアーサー! アーサー・グリントだ!!」


 アーサーのカリバーンとイーサンのリベレスティンが激しく刃を交える。


「近くに仲間が潜んでるかもしれない。アマンダは緑とまがい物を探せ!」

「イーサン! 敵との通信で名前を呼ばないで下さい!」


 紫色の新機体が離れていく。

(女性だった……いや、今はそんな事を気にしている場合じゃない。副官機が離れたんだ。後は僕がイーサンを落とせばいいんだ)

 アーサーはイーサンを撃墜しようと必死にトライ・レジェンズを振りかざすが、イーサンは華麗に避けてビームショットガンを的確に当ててくる。

(直撃は避けているけど、これ以上は装甲が持たない)

 突如、イーサン機が距離を開けた。

 イーサン機が移動した空間をビームの帯が通過した。


『グリント准尉。加勢します!』


 友軍のアルダーン部隊がイーサン機への攻撃を開始した。

 戦力に勝る友軍部隊が駆けつけてくれたのだ。

 耐えに耐えて掴んだ勝機。


「カリバーンには強力な対艦兵装がある! 敵機を直線状に追い込んでくれ!!」


 アーサーは友軍機に指示を出した。

 王の間に控える近衛兵の様に、眼前の両脇に展開する友軍部隊。

 アーサーの目の前に追い込まれたイーサン機は、友軍機に行く手を阻まれ左右に逃げる事は出来ない。

 イーサン機は後退する事しか出来ない。

 だが、今更後退しても遅い!!

(僕は皆の力を借りて勝利する。これが王の……英雄の戦い方だよ、イーサン!)

 アーサーはトライ・レジェンズを一撃必殺のランスモードに切り替えて、イーサン機目掛けて突き出そうとしたがーー

 ビィーッ!

 突如、司令部から緊急通信が入った。


『ロイド中将戦死! ロイド中将戦死!! 司令本部は防衛システム、カレイドスコープを展開します。各部隊は各自の判断で行動されたし!』


(ロイド中将が戦死……アランがやったのか……どうして? 僕はどうすればいいんだ……)

 操縦桿を握る手がガタガタ震える。

 アーサーが動きを止めた事で、イーサン機が後退して友軍の包囲から逃れていった。

 友軍機はイーサン機を追撃したが、アーサーは震える体を抑える事が出来なかった。

 戦場に出ているとはいえ、一番安全な所にいるロイド中将の戦死。

 それを実行出来るのはアランしかいない。

 因縁があるカーライル中尉は拘留されていて実行不可能、他の友軍兵士も反乱など起こさないだろう。

 何度考え直しても、実行したのはアラン以外にいない……

(戦闘前に危険だと感じたのは間違いではなかった。アランが処刑される!)

 本当にアランが実行したのであれば、既に手遅れだろう。

 その場で撃墜、又は拘留された後に処刑されるのは間違いない。

 急いで戻った所で意味はない。

 それでもアーサーには、アランの元へ駆けつける以外の行動は出来なかったーー

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