裏切りのアラン3

 ロサンゼルスの基地に来てから一週間。

 アイオワ州方面からファングの部隊が、ロサンゼルス基地に向かって進軍を始めたとの情報が入った。

 諜報部からの一報を受けたロイド中将は、作戦会議室に各部隊のリーダーを招集した。


「先陣はテスト部隊に任せるよ。殺しは得意だろカーライル中尉?」


 それが、ロイド中将が開口一番に言った事だった。


「どういう事だ?! 俺達は新型機のテスト部隊だ。最前線で戦う理由はないはずだ!」


 カーライル中尉がロイド中将の指令に反発する。

 中尉が反発するのは当然といえる。

 テスト部隊は、隊長のカーライル中尉とエースのアーサー以外は、チャリムの動作テストくらいしか出来ないパイロット訓練生しかいないのだ。


「理由ならあるだろ? 基地司令の僕が命じている。それが理由だよ」

「そんな無茶苦茶な理由があるか!!」

「止まれカーライル。ぼさっとするな、お前ら! 早く取り押さえろ!」


 立ち上がったカーライル中尉の腕をアランはひねり上げる。

 そして、駆け寄った兵士達に引き渡した。


「ほれ見ろ。気に入らない事があれば直ぐに暴れる! これがカーライルという男ですよ! さっさと最前線に送り付けるのだ!」

「いや、武器を持たせるのは危険だ。コイツは確実に裏切るだろう。戦闘が終わるまで独房で大人しくしてもらっていた方がいい」


 ロイド中将はカーライル中尉を最前線に送ろうとしたが、アランは独房送りを提案する。


「アラン! そんなに俺が信用出来ないのか!!」

「そうですよ。僕らは一緒に戦ってきた仲間じゃないですか」


 大声で叫ぶカーライル中尉。

 仲間だと主張するアーサー。

 問いかける二人にアランは感情の無い声で言い放つ。


「一緒に戦ったら仲間か……それならファングも仲間になるのかな? 一緒に戦っただろう?」

「どうして……どうしてなんだよおおおお!」

「連れて行きなさい」


 悲痛な声で叫んだカーライル中尉が、ロイド中将の指示で作戦会議室から連れ出されていく。

 中尉が心配なのだろう、アーサーは連れ出される中尉の後を追ったーー


 作戦会議を終え、ロイド中将とアランの二人だけが作戦会議室に残った。

 ロイド中将は誰も入室出来ない様に、会議室の鍵を閉めた。


「さて、どういう事かなアラン?」

「どういう事とは?」

「僕は最前線に送りこんだカーライルを、乱戦の最中にどさくさ紛れで始末しようと考えていたのだがね」


 アランの行動が思い通りでは無かったようだ。

 ロイド中将は不機嫌そうに見える。


「それでは足がつく。武装の使用履歴を辿れば暗殺がバレるだろう」

「でも独房送りにしても奴は死なないですよ」

「でも、アーサーは死ぬだろ? 3人がかりで敵のエースと互角だった。一人なら撃墜されるだろう」

「まずはグリント准尉を始末するって事ですか」

「そうだ。アーサーが消えた後にカーライルを復帰させればいい」

「なるほど、エースと新型機を失えば、部隊にはテストパイロットしかいない。後は、どの戦場に送っても勝手に死んでくれるか……」

「そういう事だ。だから俺の提案を受けて欲しい」

「もちろんだよアラン。実に僕好みのやり方だよ。これなら手を汚さず、綺麗に消し去れる」


 ロイド中将が全身で喜びを表す。

 アランはロイド中将の喜びを肯定する様に笑みを浮かべた。

(そろそろ頃合いか……)

 そして、本題である追加の提案を切り出す事にした。


「折角だからロイドも戦場に立ってみないか?」

「僕が戦場に……どうしてだい?」

「基地に籠りっぱなしの司令官に人望はないさ。だが、逆に戦場に立てば皆の士気が上がる」

「それは危険じゃないかな」

「危険はあるさ。でもリスクをなくす事は出来る。俺達のような賢人ならね」

「賢人ですか……僕達に相応しい称号とは思うけどね。具体的にどうするつもりなんだい?」


 ロイド中将はアランの提案に興味をもったようだ。

 だが、安全を確保出来なければ提案にはのらないだろう。


「敵軍との間に戦艦フリージアを配置する事で盾にする。攻撃を受ける事は無いと思うが、念のため側面側には、盾装備のチャリムを配置しよう。不測の事態が起きた場合は、直ぐに防衛システム<カレイドスコープ>の範囲内に退却出来るように、防衛ラインギリギリの位置にいよう」

「位置にいようか……それはアランも一緒って事で良いのかな?」

「当然だ俺も護衛につく。直ぐに駆けつけられるように、位置情報を送ってくれ」

「それなら、出撃してみよう。楽しそうだからね」


 ロイド中将はアランの提案を受け入れて出撃する事を決めた。

 元々楽しい事が好きな性格。

 戦争も身の安全が確保されれば、エンターテイメントと同じと思っているのだろう。


「間近で見せてやるよ、ファング共が綺麗な花火を上げる処をね」

「楽しい花火大会になりそうだな。期待しているよアラン」

「映画でも見るような気分でいて下さいよ。ポップコーンとドリンクセットでね」

「あぁ。アランも存分に楽しんでくれよ! 年が離れた友人というのも良いものだな」


 ロイド中将がアランに向かって拳を差し出した。


「友人か……今日は二人にとって忘れられない最高の一日になるさ」


 アランはロイド中将と拳を合わせて友情を示した……

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