トウモロコシと風車とソーラーパネル3

 凛は動物園に着いて直ぐにEVから降りて入場口に向かった。

(入場券は大人が2,000MJc、4人だから8,000MJcね)


「大人4に……」


 凛は一瞬アランに視線を移す。


「俺は大人だ」


 アランの年齢を知らなかったから、大人で良かったのか一瞬悩んだ事を気づかれてしまった。


「おやおや、バークス少年は年齢を気にしてるのかな? 凛ちゃんは年齢の事なんて一言も言ってなかったよね?」


 カーライル中尉がアランをからかい始める。


「気にしていない。凛が悩んだから教えてやったんだ」

「ん、悩んでいるように見えたけど、アランの年齢で悩んでいる様には見えなかったな。お金で悩んでたかもしれないぞ?」

「凛は金で困ってないよな。俺の年齢で悩んだだろ? 答えろ!」


 アランの指摘はあっている。

 だけど、本当の事を言い出すのは気が引ける。

(カーライル中尉がからかうから面倒な事になったわね。アーサーは楽しそうに笑ってるだけで頼りになりそうもないし。そうだ、"みぃちゃん”の鳴き声で誤魔化そう)

 凛が”みぃちゃん”に鳴いてもらおうと合図を送ろうとしたところーー

 ビーッ、ビーッ!

 カーライル中尉とアーサーの胸元から、警告音が同時に鳴り響いた。

 予定とは違ったが、警告音のお陰でアランの追求からは逃れられた。

 でも、安心出来る状況ではない。


「ごめん、アラン、凛。敵の追撃部隊が来たからフリージアに戻るよ」


 手早く携帯端末を取り出し、警告音の内容を確認したアーサーが謝罪した。


「二人で楽しんでねって言いたい所だが、残念ながら撤収だ」


 そう言って走り出したカーライル中尉の後に続いてEVに乗り込んだ。

 そして、再びデモインの市街地を抜けて、戦艦フリージアが停泊している工場地帯に向かった。

 折角来たのに、動物園の入り口で引き返したのは残念な事だ。

 だけど、カーライル中尉とアーサーは軍人なのだ。

 敵の追撃が来たのに戦わないという選択はない。

 そして、軍人でなくてもアランはファングとの戦闘に人生をかけている。

 皆が戦うのに一人だけ残れない。

(戦争なんてなければいいのに。どうしうて戦うんだろう?)

 凛は心の中でつぶやいた。

 その疑問に答えがない事を凛は理解しているが、それでも自問してしまう。

 生活費を稼ぐ為、思想の為、敵対されたから……戦う理由は人それぞれ。

 中には人を傷つけるのが好きなど、考えたくもないような理由で戦っている人がいる事も知っている。

 だから戦いが避けられない事は理解している。

 それでも身近な人達は、戦争とは無縁であってほしいと思っている。

(トウモロコシ畑だ!)

 気がついたら道路の周囲にトウモロコシ畑が広がっていた。

 地上で見るトウモロコシ畑は、空から見るより色鮮やかで美しかった。

 色鮮やかな緑が暗い気持ちを明るくしてくれる。

(さぁ、頑張ろう! 私も通信士の仕事をもらったんだから)


 *


 戦艦フリージアに戻った後、格納庫に向かうアラン達と別れて、凛はブリッジに向かった。

 ブリッジでは既に出航準備が進められていた。


「遅くなりました。準備を進めます」

「戦闘はしないわよ。本艦は敵艦に接近される前に撤退します。」


 フィオナ艦長が戦闘準備を進める凛を制止する。


「敵が追撃してきているのに戦わないんですか?」

「撃退出来るなら戦うわ。でも、今の人員では市民を巻き込んで死なせるだけです。だから本艦はカリフォルニア州の友軍基地を目指します」

「でも、逃げられるのですか? 敵に背後を見せたら危険だと思うのですが……」

「心配ないと思うわよ。追撃部隊は、あのイーサン・アークライトだから。東部のダベンポート近郊で大人しく停泊してるわ。出てきて俺と戦え、市民を巻き込むなですって」


 艦長が肩をすくめる。

 敵の指揮官であるイーサンの行動が理解出来ないのだろう。

 軍規に従わず、一軍の将でありながら騎士道精神を見せている。

 アーサーが嫌がっている英雄路線を自ら実践しているのは滑稽にすらみえてしまう。

 凛はイーサンに対して、英雄気取りの子供が戦場に迷い込んでいるような異物感を感じた。

(イーサンって貴族の坊ちゃんなのかな。でも、イーサンが相手なら簡単にやり過ごせそうね)


「友軍から通信です。アイオワ州の治安部隊が敵艦隊への攻撃を開始しました」


 友軍とコンタクトを取っていたスコット通信士が、戦闘が始まった事を艦長に伝えた。


「スコット! 状況説明!!」

「治安維持部隊のティガー・ロウ20機が既に交戦を初めています。周囲の都市から更に増援が向かっています」

「なにやってるの! 第一世代のティガー・ロウで現行機と戦える訳ないでしょ。直ぐに戦闘を停止するよう呼びかけなさい!」

「無理です! ファングの戦艦を見た治安維持部隊がパニックを起こしています。統制が取れません!」

「軟弱な!」


 バンッ!

 艦長が苛立ち、コンソールを叩いた。

 ブリッジを静けさが支配する。


「やっほ〜フィオナちゃん。俺達が出ようか?」


 出撃待機中のカーライル中尉から通信が入り、ブリッジクルーの緊張が和らいだ。


「貴方が出撃して何の意味があるの? 部隊の被害が増えるだけでは?」

「部隊はださねぇよ。出るのは俺とアーサーとアランの3人だけだ」

「それなら尚更出撃は認められません。部隊のエースを死地に送る訳ないでしょ」

「大丈夫だ。イーサンの奴を少しからかうだけだ。俺達に気づけば治安維持部隊を放置して、俺たちを追うだろ?」


 艦長は少し悩んだ後、指示を出した。


「カーライル隊、発進準備!」

「はいっ!」


 凛は元気よく返事し、カーライル中尉達の発進準備を始めた。

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