トウモロコシと風車とソーラーパネル4
アランはシンセシス−1に乗り込み、出撃の合図を待っていた。
だが、しばらく待っても出撃の指示が出ない。
「何故出撃しない? 敵が来ているのだろ?」
「どうやら、ファングの追撃部隊は東部のダベンポート近郊で僕達に出てくるように呼びかけているようだよ」
「イーサンか!」
アランはデトロイトで戦闘を行った敵指揮官の名を叫んだ。
戦争でありながら、このような間抜けな行動をする相手は他に考えられない。
通信で居場所を特定されれば、敵の襲撃を受ける可能性がある事ぐらい子供でも分かることだ。
それなのに名乗りを上げる愚かさ。
そのような愚かな行動をとる指揮官が複数いるとは思えない。
(愚か者がしつこいんだよ。今日こそ死んでもらう、イーサン・アークライト!)
アランは今日こそイーサン殺すと決意した。
だが、自身の苛立ちの要因に気づいていない時点で、アラン自身も愚かと言える。
他の誰もイーサン個人への殺意はない。
それは実際に戦闘を行ったアーサーやカーライル中尉も同じだ。
アランだけが持つイーサンへの強い殺意。
アランはファングを滅ぼそうと思っている。
ファングは大切なものを奪う悪しき存在だから。
ファングの軍人は悪辣で非人道的な存在だから。
そう思って生きてきたアランにとって、イーサンの存在は自身の思想を否定する異物となっている。
だからアランにとってイーサンは目障りな存在となっている。
ファングは非道だから滅ぼすと言いながら、非道ではないファングの指揮官を憎む。
矛盾した思いがアランを蝕む。
普通であれば簡単に気づける矛盾に気づけなくなる程に、アランが幼少期に失ったものが大きかったのだ。
「アーサー、バークス少年。出撃が決まった。今から作戦を伝えるから出撃準備を進めてくれ」
アランはカーライル中尉の通信で、憎しみに囚われていた状態から意識を取り戻した。
(俺としたことが……まだまだ甘いな)
アランは戦闘から意識を逸らした自身の甘さを恥じた。
そして、凛から送られてきた戦況情報に目を通す。
アイオワ州の治安維持部隊のティガー・ロウ20機が、ファングの戦艦に攻撃を開始している。
更に周囲の都市から増援が向かっている状況。
敵は戦艦2隻、おそらくデトロイトで戦闘を行った宇宙戦艦だろう。
データから想像出来るのは、E.G.の治安維持部隊の全滅。
そして多くの市民が巻き添えになる状況だ。
そのように想像するのは当然といえる。
戦闘を行っている治安維持部隊のチャリム<ティガー・ロウ>は、第一世代チャリム<ティガー・マン>の払い下げ品だからだ。
元になったティガー・マンはチャリムの名前の由来通り、戦車に手足が生えた形状だ。
完全な人型となった現行機と比較して機動性が格段に劣る。
しかもティガー・ロウは、更に法執行機関用にデチューンされている。
武装は対チャリム用兵器から、対テロ用の対人兵器に変えられているし、動力機関のG.D.ジェネレイターも、チャリム用のVS2から工業用のSI2に変更されて出力が落ちている。
宇宙戦艦を落とすどころか、現行の量産機のチャリム部隊と戦う性能すらない。
(戦闘が始まったばかりなのに絶望的な戦況だな。こんな最低な状況で俺達はどうするんだ?)
アランは続いて、カーライル中尉からの作戦指示に目を通す。
出撃はカーライル中尉、アーサー、アランの3人で、練度が低いアルダーン部隊は出撃しない。
エースで機動力が高い最新鋭機に登場しているアーサーが前線の敵機に突撃。
カーライル中尉は、アーサーが敵機に囲まれないように援護。
目的は敵追撃部隊のイーサンの注意を引きつけて速やかに撤退する事。
アランが任されたのは、アーサー及びカーライル中尉の撤退支援。
「今回も撤退戦だ。出撃するのは俺とアーサーとアランの3人だけだ。イーサンに俺たちの姿を晒して追撃させる事で、友軍への攻撃の手を止める」
「バカ共の尻拭いか。軍は治安維持部隊を止められないのか?」
「残念ながら難しいね。6年ぶりの本格的な侵攻を受けてパニックを起こしているからね。それに治安維持部隊は、軍の直接的な指示系統に入っていないからね」
「治安維持部隊がパニックで治安を乱すのか?」
「仕方ないさ。彼らだって勝ち目がない事くらい理解しているだろう。それでも国を守ろうと必死なのさ」
「それで無関係の市民を巻き込んだら本末転倒だ」
「その通りだけど、そもそも戦うべき僕ら軍が敗走したのが原因だからね」
「そういう事だ。尻拭いの更に尻拭いをやりに行くんだよ」
そう言って、カーライル中尉が機体をカタパルトにセットした。
『カーライル機、発進お願いします』
「オリヴァー・カーライル。アルダーン・カスタム出る! シッカリついてこいよ!」
カーライル中尉のアルダーン・カスタムが飛び立った。
『続いてグリント機、発進お願いします』
「アーサー・グリント。カリバーン、行きます!」
カーライル中尉に続いて、アーサーのカリバーンが飛び立った。
最後にアランがシンセシスー1をカタパルトにセットする。
アランが最後なのは、ウォルフ技師長が出撃ギリギリまでシンセシスー1の武装を変更していたからだ。
(撤退が決まっているのに、何で俺だけ重装備なんだ?)
追加武装で重鈍な見た目となったシンセシス−1は、撤退に必要な機動性を犠牲にしているように見える。
疑問に思う事はあるが、出撃を取りやめるという選択はない。
アランはカタパルトに機体をセットした。
『続いてバークス機、発進お願いします。気をつけてね」
「アラン・バークス。シンセシスー1出ます。一言多いぞ凛!」
アランは追加装備で膨れ上がったシンセシス−1を飛び立たせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます