トウモロコシと風車とソーラーパネル2

 凛、アラン、アーサーはカーライル中尉がレンタルした電気自動車EVに乗り、デモイン市街を走行していた。

 窓から見える風景は、凛が想像していたものとは異なっていた。

 古くから栄えている都市と聞いていたから趣がある風景だと思っていたのに、実際はデトロイトの最新のビル群と同じような風景が続いている。


「結構栄えているのね。もっと古いっていうか、アンティーク調の町並みだと思ってた」

「G.D.ジェネレイターの恩恵は受けていないけど、エネルギーで困ったことがない都市だからだよ。経済の発展の度合いでいえば、デトロイトと遜色はないさ。現存している歴史的な建造物は州議会議事堂くらいかな」

「アーサー、その話は町中でするなよ。困っていなくても、G.D.ジェネレイターへの反感はある。折角の息抜きなのに、余計なトラブルを起こしたくはないだろ?」


 カーライル中尉が運転しながらアーサーを注意する。

 発見から250年近く経った現在でも、未だに数量に制限があるG.D.ジェネレイターの恩恵が得られない地域は多い。

 特にアイオワ州では反発が強かった。

 多くの資産と人材を注ぎ込んだ再生エネルギーに代わる存在が、偶然発見された宝石に取って代わられたのが許せなかったからだ。

 人の努力に負けたのなら納得がいく。

 だが、偶然の産物で人類の叡智が否定されたのを認める事は出来なかったのだ。

(授業ではG.D.ジェネレイター反対派がテロを起こしたって聞いてたけど実感がないのよね。でも、カーライル中尉が言うなら本当に危険な事なんだろうな)

 学校で習っただけの凛には実感がなかったが、実際にテロを鎮圧した経験があるカーライル中尉が言っているので信じる事にした。

 カーライル中尉の経歴を知っているアーサーも、中尉の意見に素直に従った。


「わかりましたよオリヴァーさん」

「くだらない連中だな。ファングと戦う為に団結しなければならないのに。エネルギーの違いなど大した事ではないのに、揉める必要があるのか?」


 アランが苛立ちながら言った。

『ファングと戦う為に団結』という所を除けば、凛も同じ思いだ。

 貧富の差が生まれているわけでもないのに、わざわざ揉める必要があるとは思えないし、発電方法の違いで争うのは愚かな事だ。


「大した事ではないから揉めるのさ。地球上の大半の人にとっては、ファングとの戦争の方が関わりが薄い。関わってもいない戦争より、日常の些細な諍いの方が大事なのさ」

「のんきな奴らだ。コイツらが本気にならないせいで戦争が終わらないんだ。放っておいたら、ファングの奴らに全てを奪われるというのに」


 アランが窓の外の人々を睨み、拳に力を込める。


「そうならないように、僕たちがいるのさ。アランも一緒に戦ってくれるんだよね?」


 険悪な表情のアランに、アーサーが優しい声色で声をかける。


「ちょっと、3人で戦争の話を始めないでよ。E.G.の軍人だって知られる事も、余計なトラブルの元でしょ。ニュースでは、E.Gがデトロイトを放棄して逃げたって放送されているのよ」


 凛は戦争の話を続ける事も危険だと思っている。

 6年越しにファングの侵攻が始まり、E.G.は初戦で敗走したのだ。

 デトロイトがファングの手に落ちたという事は、次にアイオワ州が侵攻の対象になる可能性がある。

 E.G.軍に批判が集まるのは当然の事だ。

 それに、折角観光に来たのに戦争の話ばかりでは台無しだ。


「すまねぇ、嬢ちゃん」

「年長者として配慮が足りませんでした」

「俺が始めた話題ではないが、一応謝っておく」


 パンパンパン!

 暗い空気を終わらせるように、凛は手を叩いた。


「3人とも間違ってるわよ」

「何が間違っている? 謝罪すべき事ではないのか?」


 アランが不服そうに質問した。


「謝罪の内容と相手よ! 息抜きに来たのだから、楽しまなきゃだめでしょ! アランはアーサーをシッカリ楽しませてあげなさいよ! 一応二人のデートって設定でしょ!」

「ア、アーサーを? アーサーの歴史話に興味をもてって事か?」

「それは嬉しいね。僕は西暦時代の話が好きなんだ」

「でも、それなら出かける必要はなかったな。今から戻ってアーサーの部屋で過ごすか?」


 凛はじゃれ合う3人を楽しそうに見つめる。

(アランでも狼狽えるんだ。戦闘ではいつも冷静だから不思議な感じがする。いつもこんな感じだったら可愛いのに)


「近場で面白そうな所はないの?」


 凛はアーサーに問いかけた。

 3人の話を聞いているのも楽しいけど、折角だから何処かに遊びに行きたいと思ったからだ。

 親切なアーサーなら事前に観光スポットを調べているだろう。


「それなら動物園があるよ。凛は動物好きなんだよね?」

「好きよ。一緒に暮らせないのが残念なくらいに」

「それじゃ、出撃のコールをお願いするよ」

「カーライル機、発進お願いします!」


 凛のコールを受けて、カーライル中尉が動物園に向けてEVを走らせた。

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