聖剣の担い手達3

 アランと凛が戦艦フリージアでの生活を始めて2日。

 フォーン、フォーン!

 艦内に警報が鳴り響いた。


「G.D.ウエイブを確認! 敵襲です!!」

「敵の数は?」


 フィオナ艦長がオペレーターに状況を問う。


「IFクラス、反応3。戦艦3隻と推測されます。VS2及びVVS2クラスの反応はありません。敵チャリムの展開はまだの様です」

「総員戦闘準備。我々はデトロイトの工場を放棄します。チャリム部隊出撃準備!」


 艦長が出撃指示と同時にデトロイトからの撤退を指示する。

 最新鋭の戦力を保持している戦艦フリージアだが、敵戦艦3隻を相手に出来る程の戦力は無いから的確な判断である。

 更に問題なのは、僅か2日で敵戦艦の増援が来たという事実が、ファングの戦艦が衛星軌道上のスペースデブリを掻い潜り大気圏突入を続けている事を示しているからだ。

 例え、目の前の艦隊を退けたとしても、後続の敵増援が現れた時点で敗北が確定する。

 そのような事態は避ける必要がある。

 ブリッジクルーが出航と戦闘準備を行う中、警報を聞きつけたアランと凛がブリッジに駆けつけた。


「敵襲か? 出撃要請がないようだが?」


 敵襲なのだ。

 アランはチャリムを操縦出来る自分にも出撃要請が出るのが当然だと考えた。

 だが、艦長はそのようには考えてはいない。


「貴方は軍人ではないので、私には命令する権限はありません」

「フィオナちゃん、そう拗るなって。バークス少年、俺は一緒に戦ってくれると嬉しいんだけどね」

「カーライル中尉、何を!」


 カーライル中尉がアランに手を差し伸べる。


「準備は出来ているのか?」

「多分大丈夫じゃないかな? ウォルフ技師長の変態度に期待しようじゃないか」

「それなら問題なさそうだな」


 アランが大げさな身振りで問題ないとアピールする。

 あの技師長のメカニックしての変態ぶりは敬意に値すると、この二日間で思い知っていたからだ。


「私も何か手伝います!」


 凛が突然手伝いを申し入れる。


「それなら通信士がいいな、俺達チャリ乗り専属の! 女の子の方がテンション上がるんだよね!」

「私では不満ですか!」


 カーライル中尉の提案を聞いて、通信士の男性が叫ぶ。

 パイロットの勝手で、民間人の少女に仕事を奪われては面目が無いから当然の事である。

 当然の事だが、艦長も許可は出さない。

 だが、凛は許可が出る前に通信士の席に座りコンソールの操作を始める。


「所属チャリム各機との専用通信オンライン。カタパルトと砲撃システムの同期確認。発艦シークエンス準備完了したよっ!」


 凛が軽いノリで発艦シークエンスが完了したと言った事にブリッジクルー達が驚愕する。

 通信システムがE.G.の標準規格に準拠しているとはいえ、所属チャリム各機との専用通信を短時間で立ち上げるのは簡単な事ではないからだ。

 しかも、カタパルトと砲撃システムの同期を確認するという意識は一般人には無いものだ。

 出撃時に自艦の砲撃に当たる事を防ぐシステムの存在は、戦艦でのオペレーター勤務の経験が無いと知らない事実である。


「チャリム通信士は凛で行きます。スコットはデトロイト駐留軍への避難勧告を急いで!」


 艦長が仕事を取られて戸惑う通信士に指示を出した。


「何してるんですかオリヴァーさん! 先行きますよ!」


 アーサーがブリッジに駆け込んできた。

 緊急事態なのに、隊長であるカーライル中尉が格納庫に来ていなかったからだ。

 カーライル中尉に先行する事を伝えると、格納庫に向かって走り始めた。

 カタパルトに向かうアーサーの後を、アランとカーライル中尉が遅れぬように追いかける。


「英雄さんが先陣切ってくれるってよ」

「真っ先に落とされない様にな」

「僕は弱くない!」

「知ってるよ無敵の英雄様だろ?」

「もういい!」


 格納庫に着いたと同時にアーサーが白銀の機体、カリバーンに搭乗してカタパルトに機体をセットする。

 直後、通信士となった凛から通信が入る。


『えと、グリント機発進をお願いしますっ!』

『今日から凛さんが通信士だね。宜しく』

『宜しくお願いします』

『アーサー・グリント。カリバーン、出撃します!』


 既に始まった艦砲射撃の合間を縫って、白銀の機体が空に飛び立った。


『続いてカーライル機発進お願いします』

『オッケー凛ちゃん。オリヴァー・カーライル。アルダーン・カスタム出るぜ!」


 続いて、隊長機用にカスタムされたアルダーン・カスタムに搭乗したカーライル中尉が出撃する。

 前世紀に存在したグリーンベレー特殊部隊に肖ったグリーンに染められた機体が飛び立った。

 皆が次々に出撃する中、アランは変貌した愛機に乗り込んでいた。

 ファングのリベレーンの黒色と、カリバーンの銀色が混ざった継ぎ接ぎだらけの様な外観。

 更に元々持っていた旧式のビームライフルの代わりに、E.G.の最新鋭の武装が装備されている。

 ウォルフ技師長から返された起動キーを差し込むと、モニターに今までとは違う表示が出る。


『Synthesis ver.1』


「ウォルフ技師長、モニターの表示は何だ? 俺の機体に何をした?」

「凄いだろう! ファングとE.G.両方のシステムが使える統合プログラムだ! カリバーンの予備パーツを組み込んだからシステムの改修が必要だったのさ! 性能は上がっているから張り切って行け!」


 興奮気味に声を張り上げるウォルフ技師長。

(出鱈目な事をしたな。最新鋭機のパーツを勝手に使って問題ないのか?)

 だが、アランにはこの機体に搭乗する以外の選択肢はない。

 今更、量産機のアルダーンを借りるより性能的に上だからだ。

 カタパルトに機体を収めると同時に凛から通信が入る。


『ねぇ、バークスさん本当に出撃するの?』

『凛は質問係になったのか?』

『質問係じゃなくて、通信士! バークス機発進お願いします!」


 発進の合図を聞いて、アランは自機に名前がない事に気付く。

 個人的には機体名など必要ない。

 だが、戦場での機体識別には必要な事である。

 咄嗟に思い出した起動画面を元に機体名を決める。


『アラン・バークス。シンセシスー1、出る!』

『ちょっとぉ~。私が聞いても名乗らなかったくせにぃ~』


 凛の情けない声が艦内に響き渡った……

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