聖剣の担い手達2
アーサーにブリッジの開いてる席を勧められ、アランと凛が着席する。
「ようこそ。私は新造戦艦フリージアの艦長フィオナ・エイベルよ。あなた達は?」
艦長席に座る女性、艦長のフィオナ・エイベルが挨拶をした。
「私は高木凛です。隣のバークスさんのお店で買い物していたら巻き込まれてしまって……」
「随分ペラペラと機密情報を話すんだな。用事が済んだら独房行きにでもするつもりか?」
アランは気軽に話しかけてくる艦長が気に入らない。
フリージア……その名はメディアで公表されているE.G.の戦艦名には無い。
軍の機密情報である事は明白だった。
「そんな事はしませんよ。でも、E.G.の機密を知った以上、簡単に解放する事は難しいけど」
「この戦艦が牢獄代わりって事か……事実上の軟禁だな。新型チャリムに新造の宇宙戦艦を知ったから仕方がないって事か? しかもこの艦はファングの技術で作られているよな」
「どうしてそこまで知っているの? 貴方は何者?」
艦長の声のトーンの変化から、警戒を強めた事が伝わる。
ブリッジクルーに緊張が走る。
「知っている? お前たちが見せびらかしていただけだろ。誰が見てもファングの宇宙戦艦だと分かる構造だ。しかも戦艦の名前に花の名前を付ける所まで同じノリじゃないか」
「それは一般人には分からない事です。ファングの兵器は報道規制が掛っています。戦争の報道で外観は知っていても、兵器の名まで知っているハズが無い。貴方には尋問が必要なようね」
今まで静観していた青年がアランと艦長の間に割って入る。
服装から彼もチャリムのパイロットだという事が伺える。
「ハイハイ、ストップ! フィオナちゃんやり過ぎだよ」
「カーライル中尉! エイベル艦長と呼びなさいと、いつも言ってるでしょ!」
軽口を叩くカーライル中尉を艦長が注意する。
口調はキツイが、先ほどのトゲトゲしい雰囲気は感じられなくなっている。
人の感情に疎いアランであっても、穏やかな雰囲気に戻りつつあるブリッジクルーを見れば、カーライル中尉がこの艦のムードメーカーだと分かる。
「オッケー、フィオナちゃん。ゴメンなバークス少年と凛ちゃん。おばちゃん俺が構ってあげないからオコなんだよ」
「カーライル中尉! 誰か止めなさい!!」
フィオナ艦長が怒鳴るが、カーライル中尉は止まらない。
「英雄の坊や。俺は痴話喧嘩を続けとくから、二人を居住区に案内してくれや」
「英雄の坊やじゃないですよオリヴァーさん。二人を案内するのは問題ないですけど、程々にして下さいよ。後でみんなに迷惑が掛りますから」
「おうよ! 頼んだぜ!」
特に話を続ける意義を感じないアランと、居住区に興味を持った凛は、アーサーに案内されてブリッジを後にした。
二人が去った後、艦長が目を細めてカーライル中尉を睨む。
「カーライル中尉。これはどういう事ですか? 彼らにはスパイの可能性が――」
「いい加減にしろよフィオナ。アイツが、あの坊主がスパイな訳ないだろう。これ以上、バークス少年を追求するなら許さないぞ」
急に真剣な眼差しで語気を強めるカーライル中尉。
「な、何が許さないのよ。軍規違反をしているのは貴方よ」
艦長がカーライル中尉の予想外の反発に狼狽える。
普段なら注意する、名前の呼び捨てにさえ気付かない程に……
「軍規違反はしてるけど、人として間違った事はしてねぇよ」
「彼がなんだっていうの? 私より信頼出来るっていうの?」
「そういう言い方は狡いなぁ。決意揺らいじゃうよ」
「いいから言いなさい」
「ウォルフ技師長によれば、アイツの機体は6年前の大戦時の物だってな。恐らく、その時にファングから奪取した物だろうな。凛ちゃんが言ってただろう、バークスさんの店で買い物をしてたって。俺の想像だがな、アイツは6年前の大戦でファングに家族を奪われて、一人で生きて来たのだろう」
「だからって……」
普段は軍規に従って明確に意志を示す艦長だが、カーライル中尉の話を聞いて口篭もる。
軍人としての結論は出ているが、人としての情を失っている訳ではないのだ。
「俺に預けてくれないか? アイツも俺と同じチャリ乗りだ。きっとファング相手に戦ってくれる」
カーライル中尉は敢えて、チャリ乗り仲間と言う。
チャリムに乗っているから”チャリ乗り”。
正式にはパイロットと呼ばれるチャリムの操縦者だが、カーライル中尉を含めた現役のパイロットはチャリ乗りという方が親しみがあり気に入っているからだ。
「任せてくれと言いながら、あの少年を戦争の道具にするの?」
「逃がしたら一人で戦いそうだからな。傍にいれば少しは守ってやれるさ」
カーライル中尉が力強く敬礼する。
「分かりました。バークス少年の事は任せます。それと、パイロットね。チャリ乗りなんて言わない!」
「ありがとフィオナちゃん。後、チャリ乗りで良いじゃないか? こういうのはノリが大切よ、大切!」
「もういいので、勝手にしてください」
普段からは想像出来ない、可愛らしく拗ねる艦長の姿を見て、ブリッジクルー達も笑いを堪えられない。
そして、次第に大きくなった笑い声がブリッジを包んだ。
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