聖剣の担い手達1

『そこの不明機、大人しく投降しなさい』

『誰だか知らないけど、僕を助けてくれたよね。君に聞きたい事があるんだけど、一緒に来てくれるかな?』


 E.G.の新造戦艦と新型チャリムから同時に国際標準規格の通信が入る。


『いいだろう、案内しろ「ちょっと、もっと丁寧に説明しなさいよ」』


 ぶっきらぼうに対応するアランの会話に凛が割り込む。


『少年……と少女? 君たちは一体?』


 新型機のパイロットが驚く。

 まさか、少年と少女が乗っているとは思わなかったのだろう。


『ただのジャンク屋と客だ』

『良く分からないけど、後で色々聞かせてよ』


 アランはE.G.新型機の後に続き、リビルトを新造戦艦に着艦させた。

 ハッチを開け、操縦席から降りるアランと凛を見て、周囲で様子を見ていた整備兵達がざわつく。


「なんだ、乗ってたのは少年と少女だったのか!」

「おいおい冗談だろ!」

「君たちが操縦していたのかい?」


 爽やかな金髪の青年が、新型機から降りながら声をかけてきた。

 ――と、同時に整備兵が囃し立てる。


「おっ、英雄様のご帰還だ!」

「止めて下さいよ。僕はまだ1機も落としていないですよ」

「いいじゃやねぇか未来の王。お前ぇら! 聖剣の手入れを怠るなよ」

「おーっ! 任せてくれよ英雄さん。俺達は生きた伝説の鍛冶師だからな!」


 整備兵達がメンテナンス作業に取り掛かる。

 軍艦に似つかわしくない状況を見て、アランと凛の二人は青年に興味を持った。


「随分人気だな」

「そうね、軍人ってもっとお堅いのかと思ってた」

「この艦が特殊なだけだよ。僕はアーサー・グリント。E.G.の准尉で新型機カリバーンのパイロットだよ」

「アーサーか……だから英雄様ね。御大層な名前だ」

「ははっ、みんな大げさなんだよ。新型機の名前も、僕の名前に合わせてカリバーンに決まっちゃったしね。僕は名乗ったけど、君は?」

「バークスだ」

「私は高木凛です。宜しくグリントさん」

「アーサーで良いよ。バークス君と高木さん」

「私も凛で良いです。バークス君もしっかり名乗ったら?」

「十分名乗っただろ。俺は慣れ合う気はない」


 アランが不機嫌に言い放つ。

 アランは幸せに育ったと思われる凛とは違う。

 他者とはいずれ死別するものであり、名を伝える必要を感じていないのだ。


「話は終わったか? こっちはお預け食らって我慢が出来んのだよ」


 薄汚れた作業着の老人が話に割って来た。


「お預けってなんですか、ウォルフ技師長」

「目の前に本物のリベレーンがあるんだ。なぁ、触ってもいいか坊主?」


 ウォルフ技師長がアランにリビルトを触って良いか聞いた。


「何言ってるんだいおやっさん。リベレーンなんて腐るほど触った事あるでしょう?」

「ばかもん! コイツはなぁリベレーンなんだよ、リベレーン! 技術者の癖に、それが分からんのか?!」

「知ってますよリベレーン。B.o.Dの私設軍隊ファングの量産機じゃないですか」


 ウォルフ技師長が手にしたスパナを地面に叩きつける。


「そいつはリベレーンVEだ! 正確にはリベレーン・バリュー・エンジニアリング。リベレーンの設計を見直してコストダウンした量産機だ。製造コストを60%に抑える事に成功しながら、性能低下を30%以内に留めた傑作機だ。だがな、絶対性能についてはオリジナルのリベレーンには敵わない。コイツはな、性能を度外視した親衛隊機! 6年前の大戦時の機体だ!!」

「おやっさんそれって……」


 整備兵達が口ごもる。


「カリバーンと同じVVS2クラスの高出力G.D.ジェネレイターが搭載されているってことよ!」

「マジっすか?! 俺も感動してきちゃいましたよ」

「凄いっすね! おやっさん!」

「気付くの遅せぇよ! なぁ、触ってもいいだろ、悪いようにはしないからさ」

「断る。スパイウェアを入れられても困るかなら」


 ウォルフ技師長が再び触って良いか問いかけたが、アランはすかさず断った。

 技師長が触るという事は、機体に手を加えるという意味である事を理解しているからだ。

 それは命を預ける機体を初対面の相手に預ける事と同義だから当然と言える。

 そんなアランに対してウォルフ技師長が見当外れの返答をする。


「俺にHDCベアリングを交換する趣味はねぇよ!」

「そうか……起動キーだ」

「ありがとよ坊主!」


 アランが放り投げた起動キーを受け取り、ウォルフ技師長が年齢を感じさせない軽やかさでリビルトに向かった。


「ねぇ、どうして触らせてあげる事にしたの? 話が全く噛み合って無かったけど?」

「僕も興味あるな。ウォルフ技師長とは君たちより付き合いが長いけど、あんな風に話す所を見た事が無かったからね」

「スパイウェアを入れた場合、人間の感覚では分からない僅かなプログラム遅延が発生する。殆どの動作には影響がないが、末端部である腕部のベアリングには負荷が掛る。だから、スパイウェアを入れたらベアリング交換が頻繁になる」

「えっ、だったら問題じゃないの? あの技術者のお爺さんスパイウェアを入れられるかもしれないって事でしょ?」


 凛は、アランがウォルフ技師長がスパイウェアを入れるだけの技術がある事を認めた様な発言をしたので驚いた。


「可能だろうな。しかも、通常発生する遅延を起こさずにだ。あの男は嘘をついている」

「それが分かっていて、どうして大事な機体を任せたのかい?」


 アーサーは同じチャリムの操縦者として、機体を預ける事の意味を知っている。

 だからこそ、凛以上にアランの行動の矛盾が理解出来ない。


「俺より明らかに実力が上だからだ。あの男は起動キーを渡さなくてもセキュリティーを解除出来るだろう。なら、要望を受け入れて信頼を得るのが得策だ。強者に対しては信頼を得て恭順するのがスラムで生き残るコツだ」

「そうか……覚えておくよ。さて、ブリッジに案内するよ。艦長が待っているからね」

「そ、そうね。早く行きましょ」


 アランの返答から、彼の辛い人生が垣間見えたアーサーは目を背けた。

 そしてアランと凛の二人を連れて、艦長が待つブリッジへ向かった。

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