ジャンク屋の少年と令嬢3
敵指揮官を打ち倒す戦術を立てたアランは、リビルトのメイン動力を起動せず、ハッチを開けたまま搬出用のエレベーターで地上に向かった。
「どうして起動しないのよ? 戦うんじゃないの?」
「起動すれば敵に捕捉される。俺の戦い方に口を出すな!」
疑問を投げかける凛を、アランが黙らせる。
リビルトの動力機関G.D.ドライブを稼働すれば、稼働に必要な固有の電磁波G.D.ウエイブを検知されてしまう。
その事実はイノベーション・センチュリーに生きる軍人や傭兵にとっては常識といえる。
時間があれば丁寧に説明する事も出来ただろう。
だが、これから行うのは戦争。
命の奪い合いだ。
過去に他者の命を奪った事があるアランであっても、無知な相手に説明する余裕はない。
戦い慣れしているとはいえ、彼は15才の少年なのだ。
搬出用エレベーターが地上に上がり、スラム街に<リビルト>の巨体が現れた。
アランは手早く望遠鏡を取りだし戦況を確認する。
既に敵の宇宙戦艦からリベレーンVEが出撃し、デトロイトの駐留軍と交戦を始めていた。
そして、量産機であるリベレーンVEの中に赤い機体がいるのが見える――あれが指揮官機だろう。
先の宣言通りであれば、敵の指揮官イーサン・アークライトが搭乗していると思われる。
戦況については、純粋な性能は友軍のアルダーンの方が高いにもかかわらず、明らかに敵のファング側が優勢だ。
兵士の熟練度が違い過ぎる。
戦闘区域から遠いデトロイトの駐留軍は、都市の警備程度にしか役に立たない新兵しかいないのだろう。
やはり、この状況を覆すには、敵の指揮官を暗殺するしかない。
しかし、失敗すれば間違いなく敵軍の標的となる。
アランには、たったの一機で敵戦艦とチャリムの中隊を退けられると思うような自惚れはない。
幸いな事は、ファングの指揮官イーサン・アークライトが激情家でありながら誠実な性格だという事だ。
怒り任せで自ら出撃する失態を犯しているが、都市や市民の被害を抑える為に、戦艦に砲撃させていない事が彼の性格を表している。
「まだ分からないのか! 愚かな指揮官よ! これ以上の戦いは無駄な血を流すだけだ。市民の影に隠れていないで速やかに降伏しろ! そんなにチャリム生産地の利権が惜しいのか?」
イーサンがデトロイト駐留軍の指揮官に呼びかける。
わざわざ音声を発信しているのは、市民へのプロパガンダを兼ねているのだろう。
自らの利権を守る為に市民を巻き添えにして戦う駐留軍を印象付けておけば、占領後の統治が楽になるからだ。
(駐留軍の指揮官が愚かだというのは同感だ。だが、それはお前も同じだ!)
アランはリビルトのG.D.ドライブを起動して、ビームライフルを敵指揮官機と思われる赤い機体に向けビームを放った。
イーサンは気付いていない……直撃コースだ!
だが、直撃する直前に別の機体が射線に割り込んだ。
割り込んだ機体が構えたシールドと左腕を吹き飛ばしたが、肝心の敵指揮官機にはダメージがない。
「なんでアマンダを狙った! 狙うなら指揮官の私を狙え! 愚か者がぁ!」
イーサンが自分の声が放送されている事を忘れて叫ぶ。
(最初からお前を狙ってんだよ! 愚かなのはお前だろうが!!)
アランは舌打ちをすると同時に、自分自身も愚かだと思う。
憎いファングを撃退したいという自身の願いで、後ろに乗る少女を危険に晒してしまっているのだから。
赤い機体、イーサン機がアランが乗るリビルト目掛けて飛行する。
あの態度を見れば分かる、仲間を傷つけたアランを見過ごしはしないだろう。
だが、両者の間を光輝く重金属の帯が横切る。
(これは艦砲射撃?!)
攻撃の方向から予測するに、敵の宇宙戦艦の攻撃ではない。
デトロイトのチャリム工場の壁を突き破りビームが放たれている。
敵チャリム部隊が退避した後、工場を突き破り純白の宇宙戦艦が現れた。
(E.G.の新造戦艦?! これを守る為に、駐留軍が無駄な抵抗をしていたのか?)
そして宇宙戦艦から白銀の機体が飛び立った。
(見たことがない機体……コイツも新型か!)
「立ち上がれ! E.G.の兵士達よ! 勝利は我らの手にある。これが地球圏を守護する勝利の剣だ!」
E.G.の新型機のパイロットが味方を鼓舞する。
「全軍撤退だ!」
イーサンが撤退命令を出す。
「ですが……」
「仲間が撃たれたのだ! 黙って引け!!」
ファングが撤退を始めるが、イーサン機は最前線に残っている。
指揮官自ら殿を務めるようだ。
(まだ、敵指揮官を撃つチャンスがある!)
アランがそう思った直後、そのチャンスは無くなる。
白銀の新型機がイーサン機に向かって、ビームを放ちながら接近したからだ。
イーサン機が軽くビームを避けて、ビームライフルで反撃を行う。
E.G.の新型機のパイロットも華麗に攻撃を避けてイーサン機に肉薄する。
新型機がビームサーベルを振りかぶるが、イーサン機がビームサーベルを手にした腕をけり飛ばし、回転しながらビームサーベルを振りかぶる。
新型機がビームライフルを盾にして僅かな時間を稼ぎ、ギリギリ回避に成功する。
新型機のパイロットも腕は悪くはないが、接近戦では敵のイーサンの方が卓越しているようだ。
接近戦では敵わないと思ったのだろう。
新型機が距離を開けるが、ビームライフルを失った状況では一方的に攻撃されるだけだ。
この状況でイーサン機を狙撃するのは難しい。
アランはイーサン機の撃墜を諦め、味方の新型機の援護の為、射撃を開始した。
「なんだアイツは。出来損ないのリベレーンもどきが!」
イーサンがアラン機に向かってビームを放つ。
アランは慎重に回避する。
シートの後ろにいる凛を気遣わなければならない事が歯がゆい。
アランが敵の攻撃から身を隠すために後方に下がった事で退路が確保されてしまった。
イーサンは、その僅かに出来た退路を逃さず退却していった。
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