ジャンク屋の少年と令嬢2

「私はブーケ・オブ・ダンデライオン私設軍隊ファング、第一艦隊大佐のイーサン・アークライトである。ここ、デトロイトが愚かなるアースガバメントの兵器生産の一大拠点である事は周知の事実だ。今すぐにでも殲滅してやりたいところだが、市民の避難の為に48時間待とう。我らの寛大な対応に感謝するがいい」


 敵戦艦から流れる演説を聞いてアランは激怒する。

(何が寛大な処置だ。一方的に侵略を始めて、48時間待てば許されると思っているのか?)

 だが同時に、その提案を受けるべきだとも理解している。

 相手は戦闘用の宇宙戦艦であり、戦力が違い過ぎる。

 デトロイトの駐留軍だけでは太刀打ち出来ないだろう。

 戦闘に使える機動兵器チャリムを大量に保有していても、戦うべきがいないのだ。

 悔しいが提案を受けて、市民を避難させると同時に撤退するのが正しい判断だ。

 だが、そんな当たり前すら理解出来ない愚か者が、駐留軍の指揮官を務めているようだ。

 デトロイトの工場区画から、次々にE.G.の正式採用機<アルダーン>が出撃し、ビームライフルで攻撃を開始した。

(愚かな! 対艦用のビームライフルとはいえ、遠距離からの攻撃程度で戦艦の耐ビームコーティングが破れる訳ないだろう!)

 放たれたビームが敵戦艦の耐ビームコーティングに弾かれ、重粒子の雨が市街地に降り注ぐ。

(何をしているのだE.G.は!)

 アランの怒りは味方であるはずのE.G.にも向けられる。


「愚かな! 俺の提案を無視して市民を巻き添えにするのか。これが地球圏の支配者の選択か……チャリム部隊発進! 俺も出るぞ! 敵を殲滅して市民の被害を最小限に抑えるのだ!!」


 敵の指揮官イーサン・アークライトが感情を剥き出しにして、部下に攻撃指示を出した。

(最初の気取った口調とは違うな。こちらが奴の本当の性格か?)

 感情的になった上に自ら出撃し、その情報を周囲に聞かれるのは指揮官としては致命的である。

 だが、アランにとっては有利に働く。

 指揮官を殺せば活路が見出せるからである。

 アランは状況に対応する為、室内に戻り忘れていた事に気付いた。


「ねぇ、大きな音がしたけど、外はどうなってるの?」


 忘れていた存在――凛に状況の説明を求められる。

 アランは思案した。

 このまま置き去りにすれば、目の前の少女は戦火に巻き込まれて死ぬかもしれない。

 しかし、相手は初対面の客だ。しかも安物のジャンクパーツを1個買っただけの。

 ハッキリ言えば、どうでもいい存在。

 だが、何故か6年前の出来事が思い出された。

 今の自分なら、失う前に守れるのではないか。

 そう思った瞬間、アランは彼女の手を取り走り出した。


「ちょっと! いきなり触らないでよ!」

「いいからついてこい! デトロイトはファングの攻撃を受けている!」

「えっ、ファングって、大気圏突入出来たの? ここはデトロイトよ」


 アランが状況を説明しても、凛は状況を理解出来ない。

 デトロイトの近郊の衛星軌道は、スペースデブリの量が多く、大気圏突入が不可能なのは子供でも知っている事だからだ。

 そうは言っても、何らかの方法でスペースデブリをくぐり抜けて、奴らが降下してきたのは間違いない事実である。

 そうでなければ戦艦の動力源のG.D.ジェネレイターが放つ固有振動、G.D.ウエイブの観測により敵襲に気付いた筈だからだ。

 一刻の猶予もない緊急事態である。

 アランは今の状況を打開するのに、凛の理解は必要ないと判断した。

 だから説明をせず、凛を引き連れて店の奥の隠しエレベーターで地下に降りた。


「ねぇ、コレって……チャリム? 継ぎ接ぎだらけで見た目がヘンだけど、ファングのチャリムに似ている。どうしてジャンク屋にファングの機動兵器があるの?」


 地下の隠し倉庫に保管しているチャリムを見て、凛がアランと距離を取る。

(少女だから兵器に詳しくないと侮った。どうする?)

 アランは焦った。

 目の前の少女には兵器の違いが分からないだろうと思っていたからだ。

 凛の言う通り、目の前のチャリムはファングの機動兵器で合っている。

 E.G.の部品を流用して修復しているとはいえ、元々はファングの親衛隊機<リベレーン>なのだから。

 だが、そんな事で足止めされている時間はない。


「コイツは俺が組みなおしたリビルト品だ。うちは機動兵器も取り扱うジャンク屋なんだ。ここは猫ロボット用のパーツ屋じゃないんでね」

「機動兵器を取り扱うジャンク屋? そういうジャンク屋もあるの? 誰に売るの?」

「需要があるんだ! ここはチャリム産業の中心地、デトロイトだからだ!」

「ふーん、こんな大きい物も売れるんだね」


 アランの焦って出た雑な説明を聞いて、凛は納得したようだ。

(メカには詳しいのに世間知らずなのか……でも無駄な時間がとられなくてすんだな)

 アランは凛を連れて搭乗用の階段を駆け上がり、リビルトのハッチを開けた。

 そして、凛を後ろの非常用の座席に座らせた後、操縦席に座った。

 アランは静かに状況を打開する為の戦術を考え始める。

(さて、どうやってアイツを始末しようか?)

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