デトロイトからの撤退1

 ファングの部隊はデトロイト西方に展開している。

 戦力は戦艦3隻、チャリム部隊18機が展開を終わらせていた。

 例の赤い隊長機が先陣を切っている。

 対してE.G.側の戦力は戦艦フリージアにチャリム部隊28機。

 戦艦は少ないが、相手より数が多いチャリム部隊が白兵戦を挑めば、容易に敵を打破出来る戦力差である。

 だが、それは数の上での想定でしかない。

 E.G.側の兵士の大半は基本操作を覚えただけの新兵だ。

 まともに戦えるのは部隊長のカーライル中尉、エースのアーサー、アランの3人だけだろう。


「お前がエースだな、銀色!」


 先陣を切るアーサーが搭乗するカリバーン目掛けて、敵の指揮官イーサン機が突撃する。

 アーサーは前回の戦闘で失った量産機のビームライフルの代わりに装備した新兵器、トライ・レジェンズをアローモードに切り替え、ビームを打ち出し反撃する。


「剣がビームライフルに変わっただと! 手品で勝てると思うな!」


 イーサン機が旋回しながら全弾回避して距離を詰める。

 アーサーがトライ・レジェンズをソードモードに切り替え振りかぶる。

 カリバーンの白銀の剣とイーサン機の赤い刃が激しい衝突によって火花を散らす。

(わざわざE.G.の標準規格で通信してくるとは……無駄に自己主張の強い男だ。だが、それが再び命を狙われる切っ掛けになるのは間抜けといえるな)

 アランは相変わらず自己主張の激しいイーサンを侮る。

 今度こそ撃墜しようとイーサン機に狙いを付けたところで、1機のリベレーンVEが射線上に割り込み、ビームライフルで攻撃してきた。

(この動き、前回妨害したアイツだな。イーサンの副官か?)

 妨害をしたリベレーンVEが執拗にアランを追撃する。


「アーサーはそのまま敵指揮官機を引き付けろ! アランはそのストーカーを追い払え! 新兵達は俺に続け! 目的はデトロイトからの撤退だ。けん制射撃で時間を稼げ!」


 カーライル中尉の指示で、アルダーン・カスタムを中心に友軍のアルダーンが防御陣形を敷く。

(友軍の心配は要らないようだな。さて、指示通りにストーカー野郎を追い払うとするか!)

 アランはアサルトライフルでリベレーンVEを攻撃する。

 炸裂音と共に放たれた無数の金属の塊弾丸がリベレーンVEの装甲を抉る。

 アランはウォルフ技師長が重粒子を放つビームライフルではなく、通常弾を放つアサルトライフルを装備してくれていた事に感謝する。

 今まで装備していた旧式のビームライフルは威力は高いが、発射迄のタイムラグがある上に、連射が出来ず使いづらかったからだ。

 現行のアルダーン用のビームライフルなら少しは改善されているだろうが、発射が遅く連射速度が遅い武装は白兵戦では不利である。

 通常弾に変えた事で一撃で落とせなくても、確実に当てて損傷させれば接近戦で相手を圧倒出来るのだ。

 その理屈を実行出来るのがアランである。

 銃弾を当てて動きが鈍ったリベレーンVEの脚部をシンセシスー1のビームソードで切り払う。

(隊長から追い払えと言われたからな、地獄まで追い払ってやるよ!)

 止めまでは刺せなかったが、次の攻撃で落とせるとの確信がアランにはある。

 だから、ビームライフルを乱射して距離を取ろうとするリベレーンVEに対して、友軍から突出してでも距離を詰めようとする。

 だが、後少しの所で他のリベレーンVEからの攻撃を察知して回避する。

 ストーカー野郎のリベレーンVEを追いたいが、3機のリベレーンVEに囲まれてしまっては無理と言える。

 アランはアサルトライフルでけん制しながら、囲んでいる3機を引き付ける事に切り替える。

 1機を退却させ、3機を引き付ければ友軍にとって貢献したと言えるだろう。

 アランは15才の少年とは思えぬ冷静さで戦闘を継続する。

 ビィーッ!

 突如、操縦席に警報が鳴り、モニターに艦砲射撃の射線が表示される。

(フリージアからの艦砲射撃の予告か! 脅かしてくれるっ!)

 予告された射線に入らぬように機体を移動させた直後、チャリムが携帯しているビームライフルでは出せない、高出力の重粒子ビームの帯が戦場を横切る。

 打ち出されたビームが、敵戦艦の耐ビームコーティングに接触して高熱を放つビームの雨を振らせる。

(どうやら助けられたようだな。ピンチで気を配れなかったが、戦況はどうなっている?)

 敵機は損傷している機体は多いが、実際に撃墜出来たのは1機だけ。

 対して、友軍は既に4機落とされている。

 このまま戦闘を続ければE.G.側が敗北するのは明確である。

 アランは直ぐに打開策を考える。

 誰も頼れず、自分自身で対応出来なければ生きる事が出来なかった過去が、彼を即座に行動に移らせる。

 だが、答えが出る前に艦砲射撃の異変に気付く。

(フリージアの艦砲射撃の発射間隔が狭まっている? まさか?!)

 人の努力や操作方法で艦砲射撃の発射間隔が狭まる事はない。

 なら、答えは一つ……戦艦フリージアが敵艦目掛けて突撃して、距離を詰めているとしか考えられない。


「何を考えてるんだ。あの艦長はっ!」


 通信で友軍に聞こえる事を気にも留めず、アランは叫んだ。

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