第9話 魔術具店

フェイムは翌日、唐突に意外な行動をとった。


即ち、所有する全ての資産を処分し、現金化したのだ。

彼はレンガ隊に所属しつつも、同時にレイヴスの魔術顧問、魔術学園の名誉教授、国立魔術研究所所長など、複数の役職を兼任していた。

したがって、その資産はかなりの額となっている。


ちなみに、フェイムがこのような複数職をこなせたのは、彼が恐ろしく有能な魔術師であったからなのだか、他にフィンジアス国とレムド国との戦争が三十年の長期に渡っており、現状に於いて膠着状態に陥っていた、という点が挙げられる。

長期的な趨勢に於いては、休戦条約締結直前の段階と思われていたのだ。


また、彼がレンガ隊に所属していた主目的は、最前線での直接戦闘に参加する為ではなかった。

それは、魔術学園を卒業したばかりの新米魔術師を教育、指導する為であった。


『フェイムがレンガ隊に居れば、たとえ新人がミスを犯しても誰一人死ぬことはない』


今まではそう信じられてきたし、事実そうであった。

レンガ隊が全滅する、ほんの数日前までは。


フェイムは大量の白金貨を無限収納袋に収めると、魔術具店に向かった。


「店主、久しぶり」


「フェイム様、本当にお久しゅうございます」


「今日はだな、初心者向けのマジックスクロールを一揃欲しいのだ。

 つまり、生活魔法一式と攻撃と防御、回復治癒、錬金などなど」


「初心者向けと言う割に欲張りますな。

ともあれ、魔術の基礎を学べる初歩的な内容を求めておられるのですな」


「うむ、そういう事だ」


「我が国一位のお方が、何故今更とも思いますが、おそらく贈り物ですね?

でしたら、ラッピングもいたしましょうか?」


「ラッピングは不要だ。贈り物でもないしな」


「はあ、作用でございますか…」


店主はキョトンとしたが、それ以上詮索することもなく、大量の巻物をカウンターに並べた。


「こんなところでどうでしょう?」


「うむ、上出来だ。

あと、飛行石も一つ頼む」


「おや、高所恐怖症は治りましたか?」


「治ってないが、やむを得ず必要なのだ」


「フェイム様は、国内外にある全ての転移門を使えるのでしょう?

…なるほど、さては飛行石の方が贈り物ですな!」


「飛行石で家が一軒買えるというのに、一体誰に贈るというのだ。

まあ、そんな相手が居たらそれはそれで悪くない話だがな」


「フェイム様であれば、もてないはずはないと存じますが…」


店主は頭をかいて飛行石をカウンターに並べていく。


「もてた試しはないが、もてなくて困ったということもない。

…まあいい、指輪タイプの飛行石をもらおう。

何せ高所恐怖症だからな、指輪以外だと、もしもついウッカリ落としてしまったら…と、妄想が止まらんのだ」


店主は肩をすくめ、


「それでも飛ぶと言うのだから、フェイム様は勇気ありますな!」


と、つまらぬお世辞を言ったのだった。





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