第7話 フェイムの後悔

レイヴス副隊長、エイミが王都に帰還した。

そして『レムド軍撤退』の報告により、大規模な救援部隊が編成され、エムラド峡谷に向けて出発していった。


それから数刻後、救援部隊はレンガ隊消失点を中心に緻密な調査を始めた。

やがて、現地の惨状についてその詳細が判明した。


エムラド渓谷はレンガ隊消失点より前後約20キロに渡って、2~3メーターの高さで石が敷き詰められていた。

それはまるで、戦闘行為というより土木工事と呼ぶに相応しいものだった。

しかし、現実としてレンガ隊二千名が生き埋めとなり、全滅させられたのだ。


渓谷に隙間なく石を敷き詰める為、侵攻ルートには採石場が数か所設けられていた。

採石場はワイバーンのブレスによって大岩が粉砕され、更に魔術師が土魔法で大きさと形を整形していた。


均一の形状を持った石、(人間にとっては岩なのだが)

これらを均一に敷き詰める為にワイバーンは緻密に隊列を組んでいた。

そもそも渓谷は自然によって作られた回廊であって、均一の幅を持つ直線道路ではない。

であるにもかかわらず、回廊は均一に埋め立てられていたのだ。

つまり、ワイバーン部隊の練度の高さは恐ろしいレベルにある。


かのような詳細報告を受けて、魔術師フェイムは自室で嘆息していた。


『今回、レムド軍はワイバーンの大群を高い精度を持って運用していた。

 つまり、テイムに成功していたのは間違いない。

 しかし、ワイバーンは突然散開して大森林に帰還している。

 おそらく何かしらの理由でテイムが解けたのだろう。

 実際、レムドの竜騎兵たちは徒歩でレムドに帰還したという事だ』


そして、フェイムは後悔を募らせる。


『レムド軍がこのような形で撤退すると最初から分かっていたなら、自分は王都に戻る必要はなかった。

 自分なら魔法でシールドを張って幾人かを助けられたはずだ。

 土魔法で避難場所を作ることも出来たはずだ。

 あるいは、極大魔法を放てばあいつらの半数は殲滅出来たはず…』


極大魔法は詠唱に時間がかかる為、発動前にワイバーンの落とす岩に埋め殺されていたであろうことは間違いないのだった。

かくも現実は過酷であったが、それでも彼は自分を責めることを止めない。

そして、自分を責める言葉に、当然、答える者は居ない。

そもそも、彼以外にも現地に魔術師は何名か居たのだ。

しかし、結果は既に出ている。


『全滅なのか。

 本当に一人も助からなかったのか』


自分が王都に戻ったのは、あの時点でレムド軍のワイバーン部隊が大挙して王都に進軍する可能性が高かったからだ。

その選択が妥当なものであった事は納得できるところだ。


しかし軍属の魔術師として、レンガ隊唯一の生き残りになったという事実は、

感情において無念しかない。


『エムラド渓谷に転移門があれば、自分も仲間と共に最後の意地を見せられたものを。

 あまりに無念だ』


フェイムは窓辺に酒の入った杯を置いて戦死者を供養した。


そして自分は水を飲んで、謝罪の言葉を呟き続けた。


『応援を連れて帰ると約束した。

 その約束を違えて、本当にすまなかった。

 本当に、俺はもうお前らと共に酒を飲む資格が無いのだ』


窓辺に置かれた杯を、月明かりが静かに照らしていた。

 

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