第5話 テイム

魔術師フェイムの報告を受け、フィンジアス国王レスタルガは彼の直属部隊『レイヴス』をエムラド渓谷への偵察部隊として派遣した。


「フェイムよ、残念ながら応援は出せん。

 お前の報告を信じるならば、全戦力を王都防衛に温存せねばならんからだ。

 数千規模の竜騎兵が前代未聞である点はもちろんだが、侵攻時に奴等が石を掴んで落としてきたという事であるならば、奴等が王都上空に到達した際、その時奴らが落とすのは石なぞではなく、更に危険な他の何かであろう」


「御意」


フェイムはレンガ将軍との約束を思い出して内心歯噛みしたが、王の指示するところが最も賢明である事は明らかだ。


それから王は、レイヴス隊長アズランドに問いかけた。


「エムラド峡谷は石に埋められているらしい。

 偵察は空から行え。

 ちなみに我が国の竜騎の体制はどうなっておるか」


「はっ、レッドドラゴンが一騎、そしてワイバーンが20騎であります」


「前回報告と変わらずか。

 まあ良い。敵軍とは数で負けるが、今回あくまで偵察だ。

 危険を感じたら交戦せずに逃げてこい。

 主戦場は王都になろう」


「御意」


俗に、『レッドドラゴン単騎はワイバーン百騎を屠る』と言われている。

偵察任務に徹するのであれば、けして無謀な命令ではない。


「念の為、土魔法を使える奴を二名ほど乗せていけ。

 今回救援任務ではないが、状況を見て生存者を救出しろ。

 そこはお前の判断に任せるが、くれぐれも偵察任務優先である事を忘れるな」


ちなみに、王が救援を一部許可したのは単に戦況把握の為であった。

フェイムの報告は詳細において曖昧なところが多く、王都防衛についても具体案を詰める事が出来ずにいる。


指示を受け、アズランドはエムラド渓谷に急行する。

アズランドはレッドドラゴンに騎乗し、腹心4騎のワイバーンと共に飛翔した。


「エイミ、今回の件お前はどう思う?」


「レムドの数千騎のワイバーンですか?

 正直、フェイムが敵魔術師の混沌魔法にやられてると私は思いますね」


「確かに荒唐無稽な話だからな。

 しかし、だからこそフェイムには精神鑑定の判定魔法を行った。

 信じがたい状況ではあるが、彼の報告が真実なのであろう」


「となれば、レムド国は大森林のワイバーン共をテイムする方法を見つけたという事になります」


「我々が千年間、代々研究を続けて、『大森林の魔族はテイム不可能』と結論をだしたはずだったのだがな。

いささか不愉快ではあるが、仮にその方法が分かれば、こちらも数を揃えられること事になる」


「あるいは、我々同様にワイバーンの巣から卵を盗んできたと。

 我々は20個しか盗めませんでしたが、やつらは千個盗んだという訳です。

 ハハ!

 卵からなら魔獣もテイムできる、子供でも知っとるやり方ですからな、成獣をテイムする奇跡に頼るよりは全然可能性がありますぞ」


「確かに。

 とはいえ、ワイバーンの巣は大森林でも魔素濃度が高い深部にある。

 故にワイバーンの卵確保はS級冒険者でも成功率一割の高難易度だ。

 であればだ。

 ワイバーンの卵を千個盗む程の戦力、その実力があれば、そもそもワイバーンをテイムする必要など無いのではないか?」


アズランドとエイミはエムラド渓谷の上空を滑空しながら、無駄話を続けている。

ちなみに、彼らは通信用の魔道具を用いて会話を行っていた。

非常に高価な装備である為、それ自体レイヴスのステータスシンボルとなっている。


両名の無駄話はまだ終わらない。しかし、両名とも内心は緊張している。

フェイムの報告を信じるならば、レムド軍は現在王都を目指してこちらに向かっている。

当然ながら、レンガ将軍の部隊を発見するよりも先に敵軍と邂逅する可能性が高い。


「そろそろ来てもおかしくない頃あいだ。

 打ち合わせ通りいくからな、ファイブ、高度をあげろ」

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