リン

 すべてが繋がった。


 リンは導き出した答えに深い絶望を抱いた。


 バカげている。


 けれど。


 これほどジェノの行動に説明が付く答えはない。


 ジェノはすべてを読み切っていたのだ。


 ガルダにこの4人で来ることも。


 全員がジェノの誘いを断ることも。


 そして、メルの作戦もだ。


 正しくはそうなるようにジェノが仕組んだのである。逆に考えてみるとよく分かった。


 4人でガルダに行けと言ったのはジェノの作戦に従っていたアリスだし、メルやライルが一緒でなければリンは亡者の嘆き欲しさにジェノの誘いを断れなかった可能性がある。


 またメルの作戦は確かに斬新だったが、ジェノがメルの得意分野を知らなかったとは考えられない。メルが迷わず今回の策を思い付くように不死者を大量に呼び寄せたのではないだろうか。


 だからこそジェノはリンの居場所に気付いていた。魔術をわざわざノアの眼前で放ったのは戦意を取り戻させるためで、リンの行動を看過したのも開門の儀式を潰させるためだと思われる。


 なぜか。その答えは3つの疑問を思い浮かべれば辿り着ける。


 1つはノアがいかなる方法で不死身の肉体を持ったアレックスを倒したのか。


 第5の聖戦時にノアが使っていたのは鋼鉄製の剣だった。献身の翼は聖戦後に獲得したのだから呪体化に使った魂も高が知れている。万が一で手下の魔物に襲われては笑い話にもならないため、アレックスは常に高度な呪体化をしていたはずなのに。


 もう1つは、なぜジェノはアリスと違って次の勇者になる話をリンに教えなかったのか。


 この答えは簡単すぎる。ジェノは自ら言っていた。


 勇者と魔王は争いを避けられない、と。


 そして最後の1つは。


 なぜ今の今まで気付かなかったのかと自分を呪いたくなる疑問だ。


『……次の機会があったら。ですけどね』


 本当に。なぜ気付かなかったのか。別の意味で子を望めないアリスの嘆きを。


 リンは涙も払わずに反転した。今は女神像なんかどうでもいい。


 床を力強く蹴るたび、過去のジェノの言葉が蘇った。


『優先すべき命の順序を見誤るなよ?』


『私は1対4でも構わん。腕の1本でも奪えたら褒美をくれてやるぞ』


『私は人の命の重さを平等だと思っていない』


『その伝承は憐れに思った。やっとの思いで再会した姉妹が離れ離れになり、しかも戦わねばならんのだからな』


『仮に今も一部の人間の都合で姉妹が離れているとしたらどう思う?』


 再会させてあげたい、とリンが言った時、そうか、とジェノは薄く笑っていた。


 あの笑みは、私もそう思う、と言いたげだった。


 一切の妨害もなく神殿の外に出ると、メルの指示によって不死者がそこかしこで同士討ちをしていた。だがリンの関心は別の場所にある。


 すぐに視線を上方に向け、ノアの魔法剣がジェノを貫いている光景を目の当たりにして意識が一瞬だけ遠退いた。


 なんだ、これは。絶望の種が胸中で芽吹くのを感じながらもリンは懸命に訴える。


「抜いて! ノア! 早く! 剣を! ジェノから早く剣を抜きなさい!」


 リンの絶叫に最も早く反応したのはジェノだった。


 彼は、笑っていた。


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