決着
ノアは焦っていた。
リンが一向に出て来ない。神殿内で何かが起こったのだろうか。
気にはなっても見には行けない。僅かでも攻撃を緩めればジェノを神殿に向かわせてしまう。
が、そう考えるたびに違和感が襲ってくるのはなぜなのか。
「リンが気になるか?」
ジェノが暴風雨に等しいノアの猛攻を余裕の表情で避けながら問うた。未だに攻撃は擦ってもいない。
「躊躇しているのだ。作戦が上手くいきすぎていることに疑問を抱いてな。前にも言ったはずだぞ。リンは慎重を通り越してトロい。しかし幸か不幸かその愚鈍な性格が良い結果を招くことが多くてな。ラトの宝石塗れの件もリンがトロくなければ私が到着する前に殺されていた訳だ。お前との旅の件でも早々に交渉していたら断られていたに違いない。だが結果的にリンはメルヴィナを見つけ出し、故意に魂魄暴走を起こさずともお前達との旅は始まった」
否定は困難だ。ジェノの話は秘薬収集の旅にも当てはまる。
リンが無駄に祈る毎日を繰り返したからこそ旅立つ前に必要な秘薬が判明し、またその内の2種を獲得できた。手ぶらのスタートと比べたら百倍は良い。リンが自分の勘に惑わされてもおかしくないほどの結果だ。
「リンは中途半端に頭も回るから質が悪い。己の推理を己で否めんのだよ。それが例えこの土壇場でもな。生兵法は大怪我の基とはよく言ったものだ」
だが、とジェノは信じ難くもノアの突きを身体で受け止めた。腹部に深々と刺さった魔法剣は背中まで貫通したが、ノアの焦燥を嘲笑うかように一滴の血も零れない。
「その点はお前も変わらん。なぜ私が攻撃を避けるのか。真意を履き違えていたようだな。リフィスの魔力で創造した
ジェノが弟の愚行を窘めるかのように戦棍をゆっくりと振り上げる。
効果の見込めない魔術で攻撃するか。武器を手放すか。攻撃を受けるか。
今のノアに与えられた選択肢はそれくらいだ。懸命に2番目を実行しようとするものの、ジェノの片手が剣の握りごとノアの手を束縛して放さない。
まるで万力で掴まれたようだ。両手対片手なのにジェノはビクともしない。
一か八かで高位呪体化を使うべきか。だがそれこそがジェノの狙いだったら――、
「浅慮が過ぎたな。これで終わりだ」
ジェノの宣告がノアの思考を遮った。
終の願いがリフィスの聖なる力に呼応して光り輝く。
さながら、魔王は勇者に勝てないのだと知らしめるかのように。
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