決別
ジェノは例の広場に来ていた。
ベンチに凭れ、噴水の和やかな音を聞きながら空の星々を眺めている。
5分ほどそうしていただろうか。やがて待ち人が訪れた。
「お待たせいたしましたなぁ」
いつもは立ったままで話すのに、今日のインテグラはジェノの隣に座った。
「ご決断いただけましたかな?」
「優柔不断で悪いな。国王の態度次第と言ったところだ。結論はまだ出せん」
本当は結果など見えている。王族どもの答弁なんぞ想像するに易い。
「ふむ。クライブ・マクニッシュ殿があっしの説得に応じたと申し上げても?」
「大したものだ。聖騎士とはいえ我の強い貴族の嫡男を説き伏せるとは恐れ入る」
だがどうでもいいことだ。ジェノの覚悟は揺るがない。
「どうしても解けない疑問があってな。意見を尋ねてもいいか?」
「構いませんぞ。あっしが答えられるものならどんな内容のことでも」
「なぜ魔王は魔王という呼称のみで悪だと判断されるのだ?」
ジェノは不思議でならない。
魔物を率いていた面を差し引いても第5の魔王は充分に優秀な統治者と言えた。
なぜ各国の王以上に慕われ、現在以上の平和を築いた前回の魔王は悪として討たれなければならなかったのか。どれほど考えても納得のいく答えが出ない。
「魔王とは世界共通の仇敵で、世界とは各国の王を示すからでしょうな。要するに権威を持った者が黒と判断すれば純白でも漆黒となるのでしょうよ。例え対象が聖人君子だとしても、王族が魔王と定めれば魔王。そして人々は権威者の情報操作で魔王を悪と思ってしまう」
「なるほどな。王族の敵を倒せば正義。王族の敵に回れば悪。勇者も魔王も器に過ぎず、中身など何でもいい訳か。役に立てば持て囃し、邪魔になれば壊せばいい」
ジェノは立ち上がった。夜明けはまだ遠い。王族が支配する世界の未来と同様に薄暗い。
「シヴァルトという国を知っているか?」
「ええ。大司教の故郷でしたな。確か前回の聖戦で最初に滅びた国でしたか」
「ではもう1つ。なぜ魔王が真っ先にシヴァルトを滅ぼしたか知っているか?」
インテグラは即答しなかった。知らないからではない。
「……どなたにだって、我慢の限界がございますからな」
無論だ、とジェノは答え、インテグラに顔を向けた。
「誰にだって限界はある。貴様もなるべく邪魔はしてくれるな」
「……本当に。この世界は呪われすぎですな。あっしは神を恨みますぞ」
事実上の拒絶を受けたインテグラは、家族を亡くした子供のように辛い顔を見せたのだった。
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