報告

僕はあれから丸一日歩き続け、中央庁に到着した。

中央庁の衛兵は僕の姿にぎょっとしていた。

そりゃそうだ。

僕の足は少しは回復したもののまだ酷く腫れ上がり、歩けるような状態ではないからだ。

一瞬心配そうな顔を見せるも、僕の顔を見た途端それは嘲りに変わった。

そんなのはもう慣れたが、やはり僕の一族は嫌われているらしい。


水の国。

この天帝国において北に位置する国だ。

天帝国はこの大陸を統べる10の国からなる連邦国だ。

火・風・土・木・雷・光・闇・無・天空の9の国。

そして僕の生まれた水の国を合わせた10ヶ国で構成されている。

かつてはそれぞれが独立した国だったが、古の大戦により天空の国をトップとする連邦国になった。

そして、僕達水の国の一集落の水流の一族は、数ヶ月前に天空の国のトップである天帝ウラノスに反発したことにより、中央庁に消された。

文字通り消されたのだ。

そんなこともあり、一族は裏切り者として嫌われている。

僕はその一族の生き残り。

だからみんな僕をまるで人間じゃ無いかのように扱う。


そして生き残りの僕は中央庁に飼い殺しにされている状態だ。

僕が中央庁の言う通りにすることで、あいつを普通に生きさせる。

それが僕と奴らとの契約。

事実上僕は奴らの奴隷なのだ。


「瑞輝くん!どうしたのその怪我!?」


ただそんな中央庁にも僕の味方は少数ながらいる。

今声をかけてきたアリアさんもその1人だ。

アリアさんは中央庁所属の魔法師で僕の一応の保護者になっている。

そんなアリアさんは僕の足を見てびっくりした顔をしながら駆け寄ってきた。


「今、回復魔法ヒールかけるから動かないで。」


アリアさんの回復魔法ヒールで足の腫れが少し引く。


「何があったか話してッ―。」

「それよりもまずは報告に行ってきます。時間があまりないので。」


僕はすごい勢いで問いただしてくるアリアさんの言葉を遮り、報告に向かう。

コンコンコンッ。


「特殊魔獣対策室所属 瀧 瑞輝、ゴブリン討伐より帰還しました。」


僕が扉を叩き部屋に入ると、奴のほかに4人いた。

おそらく中央庁の役員だろう。

何度か目にしたことがある4人だ。


「それで、ゴブリン討伐程度に4日もかかった言い訳を聞こうか?」


中央の男、レイブン卿が僕を嘲笑する。

レイブン卿。

中央庁の魔獣対策室長であり、中央庁の実質的なトップ。

いかにも貴族みたいなカッコをしている。

40代って若さで中央庁の実権を握れるだけの優秀さはあるが、野心が高くいつか王族になり変わろうとしてるのではないか、という噂が絶えない男だ。

他の4人はレイブン卿の腰巾着だろう。


僕はレイブン卿と周りの4人にゴブリン討伐の途中でロードが出現し、戦闘をしたことを報告した。


「ロードねぇ、私の部下が君の確認に行った時にはそのようなものを確認したって報告はないのだか。」


この発言で僕はピンとくる。

僕が中央庁に帰ってきたのはついさっきだ。

今受けた報告の真偽を確認するために部下を派遣できるわけがない。

つまりは全て仕組まれていたのだ。

通常よりも多いゴブリンの群れも、ロードの出現も。

全て僕を殺すためにこいつが仕組んだものだったってことだ。

とことん僕のことが邪魔らしい。

正確には僕らか。

僕とあいつあの日の真実を知るものをとことん潰したいらしい。

だけどあの時不用意に結んでしまった僕との契約で、あいつを消せないからまずは僕を殺すってことね。

とことんひん曲がってる。


「まぁ良い。次のプランはいくらでもある。もう下がっていいぞ。」


小声で言ってはいたがそこまで隠す気もないらしい。

僕は一礼してから部屋を出ようとする。


「そうそう。フラン女史が君を探していたようだ。早く行くといい。」


レイブン卿が僕を引き止めそう言う。

なるほど、肉体の次は精神的に殺すプランか。

僕は了解しましたと一言言うと部屋を後にする。


部屋から出た僕は未だ痛む足を引きずりながら、あるところに向かって歩き出す。

中央庁の人間が寄り付こうとしない、人物の元へ――。


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