3 柔らかな手


坂道をのんびり下り、通っていた幼稚園を怪しまれない程度に眺め、またゆっくりと歩く。


途中、たいして思い出もないであろう何でもない郵便局を菜々は嬉しそうに眺めていた。


「この景色の感じ懐かしいな」と言っていた。

そうして、また二人でぶらぶらと歩く。


「はる子、幼稚園の子みたいに手繋ごうよ」


わたしは同性とはいえ、少し恥ずかしかったのだけれど、菜々は何でもない顔で言ってのけていた。


なんとなく大人の余裕を見せつけられているようで、わたしは「何だこいつ」と思った。


少しだけ悔しかったので、同じように照れも何もない普通の表情を装って、そのほっそりとした手に触れてみたのだった。柔い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る