2 無人駅


 中間テスト最終日の、放課後のことだった。


「だって、幼稚園のときの友達だよ?」

気づかないって、普通!と、わたしが声を大きくすると、あの子もとい幼稚園時代の友人である菜々ななが、くりくりの目を大きく見開いた。


わたしたちは駅のベンチに座っていた。

ここは、わたしの家の方の最寄り駅だ。

菜々の最寄りはもう少し遠いのだそうだ。


「え~、私はちゃんと、はる子だって分かったのに!」

「なぜ…… まじで幼稚園以来なのに」

「だって、顔変わってない。目がタレ目で可愛いもの」

「ん? それはわたしのこと、幼顔だってディスってんのかなあ? くりくりおめめの菜々さん」


 わたしたちは、携帯電話で連絡先を交換した。

そうして、ベンチに座ったまま、たくさん話をした。


放課後の、駅員のいない無人駅。

暖かいけれど、とても静かな場所だ。

学生がべらべら喋る分にはとても良い。


 菜々とは幼稚園のときしか仲良くしていなくて、小学校も、中学校も、そして、高校も、どこで何をしているのかさっぱり知らなかった。

まさか、こんなにあっさり再会してしまうとは。  


しばらく、ぽつぽつと話が続き、ふと、菜々がわたしの住む町を見たいと言った。


「幼稚園とか公園とか見て回りたい」

 不思議な微笑み方で、菜々はそう言った。


もともと、菜々もこの町に住んでいたのだ。

遠くに引っ越すから、同じ小学校には行けない、と泣いていた小さくて可愛い菜々の姿を思い出した。久しぶりで懐かしいのだろうな。

そう思って、わたしは道案内を引き受けた。


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