第14話 推した理由




「ねーぇ?ショウくんとアツシくんは何でマリアの事を好きになったの?」


スマホを見ながらアヤカは言った。マリアと関わりがあったであろう怪しい人物を探しながら俺達は会話をしている。



「まぁ、マリアは凄く可愛いし私もそれは認める。でも親しかった訳でもないのに何でそんなに一生懸命になれるのかなって。ファンとして認知されているかも定かではないのに。嫌味を言っている訳じゃないよ。ただそんなマリアがやっぱり羨ましいなって。愛されてるなって思って。素朴な疑問なんだけど」



アヤカはふんわり巻かれた柔らかそうなツインテールを揺らし首を傾げながら言った。



「よくぞ聞いてくれましたね!」



ショウは待ってましたと言わんばかりに、とても生き生きと答える。


「僕はですね!マリアが一時、コスプレの写真を良く上げていた事があったじゃないですか?!その時、魔法少女♡ミカリンのコスプレをして載せていたんです。わー!ミカリンちゃんが現実に居るって感動しました。そこから僕はマリアの事をいろいろ知っていきました。気づいたらマリア本人の大ファンになっていました!!マリアは僕に生きる希望をくれたのです!!」



「え……ショウくんって、やっぱりキモオタじゃない……」



熱く語るショウとは対照にアヤカは少し引いているようだ。


「何を言っているのですか!!?魔法少女♡ミカリンは最高に面白いんですよ!僕の人生のバイブルと言っても……」



ショウが立ち上がって拳を握りしめて訴える。



「まぁまぁ、落ち着いて」



「……すみません。取り乱してしまいました。アツシくんはどんなきっかけだったのですか?」



「俺は、話せば長くなるけど……」


「聞きたいです」


「私も気になる!」



ショウとアヤカは子どものように目を輝かせて聞いてくる。


俺は自分の過去を話す事にためらいがあった。マリアを好きになったきっかけもショウのように楽しいものではない。


少し悩んだが二人に話す事に決めた。ここでもし引かれたそれまでの関係だったと言う事だし、いつか話すなら今しかないと思ったから。



今二人の存在が俺の中ではとても大きく、受け入れてほしいと言う気持ちもあった。



「……そんな楽しい話じゃないよ。どっちかと言うと暗い話。……俺さ、中学生の時にクラスの皆と馴染めなくて浮いてたんだ。最初は友達もいたし、楽しく過ごしてた。でもある日、クラスメイトの財布がなくなった事があったんだ。なぜか俺が犯人にされてさ、もちろん俺はやってないよ?でも誰も信じてくれなかった」




「何それ、ひどい……アツシくんがそんな事する訳ないじゃない」


「そうですよ!」



「ありがとう……。その時の友達は皆、離れていった。一人ぼっちの学校生活は中々しんどくてさー、毎日死にたいって思ってた。今なら一人でも全然気にしないんだけど、その時は本当にしんどくて。そんな時SNSのおすすめにマリアのアカウントが出て来たんだ。最初はただ可愛いなーって思ってアカウントを眺めてた」



「辛かったですね」




「マリアが配信でリスナーのお悩みに答えるって言う企画をやってたんだ。それでダメもとで『友達が居なくて学校が辛い。死にたいと考えてしまう』って送ったんだ。そしたら、マリアが配信で俺のメッセージを取り上げてくれてさ、



『あなたの顔もわからない私が、あなたに生きていて欲しいと願うのは私のエゴでしかないのかもしれない。それでも私はあなたが生きていてくれると思うだけで、こうしてメッセージを送ってくれただけで嬉しいし、私自身も生きる希望をもらえています。どうか無理はなさらないでください。沢山寝て、沢山ご飯を食べて、沢山好きな事をしてください。学校へはいかないという選択肢もあります。あなたはもう充分に素敵な人です』




って言ってくれたんだ。

俺、憧れのマリアにメッセージを取り上げてもらっただけでも嬉しかったのにさ、いっぱい励ましてもらって本当に嬉しかった。辛かったけどまた、少しだけ頑張ろうって思えた。マリアが元気に活動してくれてたら、それだけで俺も幸せだなって思えた。今は、マリアがこんな事になって正直、心が参ってた。マリアの事救いたいって必死で頑張ってたけど最初は一人で凄く心細かったし。

でも今はショウもアヤカもいるから、俺は頑張れていると思う……」



誰かにこんなに自分の気持ちを話したのは初めてだった。

二人がどんな表情をしているのか怖くて見られなかった。



「アツシくん!!そんなに僕達の事が好きだったんですね!!」


「私もアツシくんの事好きよー!!」




ショウが涙目になりながら抱き着いてくる。


「ショウくん!アツシくんに何やってるのよー!」


俺が悩んでいた事なんてどうでも良くなるくらい二人は明るい笑顔なので、俺もつられて笑ってしまった。



「お、重いって……」


「もう、照れないでくださいよ」






そんな他愛もないやり取りも今の俺には心の支えになっている。






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