第12話 容認された事件
『SNSで大人気、インフルエンサーのマリアさんの行方が分からなくなって居るという事です。警察の調べによりますと……』
翌朝、マリアの事がついにニュースになっていた。
寝ぼけ眼でテレビをつけるといきなりこのニュースが流れてきた為、まだ自分が夢の中に居るのかと耳を疑ってしまった。右手で思い切り頬をつねってみる。
「イテっ……」
夢ではなかった。紛れもない現実だった。
やはりあの日からマリアは行方が分からなくなっていたのだ。
俺の読みは、疑いは当たっていた。嬉しくない。この期に及んでも、マリアがただの体調不良で活動を休んでいただけという線を心のどこかで願っている自分が居たから。
テレビのニュースで取り上げられた事により、現実を突きつけられ、今までわかっていたはずだったなのに心の中が真っ暗になっていく感じがした。
あの殺害動画が投稿されてから三日がたつ。やっと警察が動き出したのだ。
SNSを覗くと「マリアが失踪?」「やっぱりあの殺害動画は本物だったの?」と様々な意見が見られた。「僕のアカウントをフォローしてくれたら、マリアの殺害動画をプレゼントします」などと言うフォロワーを稼ぎたいが為にマリアを利用しようとする立ちの悪い奴もいた。許せなかった。
マリアのアカウントもフライのアカウントもあれから何も投稿されていない。
俺はやはりどうしてもフライが何か関係があるような気がして、会って話せないかダメもとでメッセージを送る事に決めた。
『はじめまして。マリアの事何か知っていたら教えてください』
トモキにメッセージを送った時のように、文章を考えている余裕はなかった。何か一つでも手がかりが掴めないかと焦る気持ちでいっぱいいっぱいだった。ショウに相談してから送るべきだっただろうか?
学校側からは特に連絡がなかった為、いつも通りに登校した。マリアの事件について疑いが確信に変わった事で通学路の景色さえも色あせていくように感じた。
空が暗い。花が黒い。空気がまずい。それほど俺の中で大きな出来事だった。
頭では分かっていたはずなのに心は何もわかっていなかった。
思いの外、学校の前に集まっているマスコミはまだ少ないようだ。ただ事件の事を面白がっているだけの輩だ。俺は誰とも目を合わせないように速足で教室へ向かった。
教室に着くとクラスメイト達もマリアの話題で持ちきりだった。俺はそっと自分の席に腰掛けた。
「アツシくんいますかっ?!」
教室のドアがいきなり開く。ショウが息を切らしながら俺の所に駆け寄ってきた。ショウの勢いに圧倒されて皆がこちらを見ている。
「お、おはよう。どうしたの?」
「おはようございます。ビッグニュースです!!」
「マリアのニュースならテレビで見たよ」
「マリアの事ではありません!」
ショウが俺の机をバンッと叩いた。
「いや、関係はあるんですが、ヤマダ先生が退職されたそうです!!おかしくありませんか?!このタイミングで!!」
「落ち着いて……皆見てるよ」
「あ、すみません。早くアツシくんに話したくて……」
ショウは恥ずかしそうに自分の口元に手を当てた。
「まあ、確かに怪しいけど。でもヤマダ先生はマリアがいじめられていた事に気づかないくらい生徒に興味が無かったってアヤカが言っていたじゃないか」
「そうですけど!アヤカの事だって完全に信用できる訳ではないですし、調べてみる価値はあると思うんですよね。マリアの両親とも唯一話していたのはヤマダ先生だけですし……」
確かにトモキとサホから話は聞き終えたし、これからメールの送り主が分かるまで調べる当てがある訳でもない。フライからの返信もまだ来ない。ヤマダ先生についてなら他の先生や生徒に聞き込みするなど方法はいくらでもあるという事か。
「おはよーう。ホームルーム始めるぞー」
担任の先生が教室に入って来る。
「あ、もうこんな時間ですか。ではまた後で」
ショウは急いで自分のクラスへと帰って行った。もっと話したい事があったのに残念だ。
ショウはいつも通りに見えた。テレビでマリアのニュースを見てすんなりと受け入れられたのだろうか?
ホームルームではこれからの学校生活について説明があった。今週いっぱいは午前授業で帰宅になるという事だった。マリアの事件については詳しくは何も教えてはもらえなかった。
俺達、生徒のメンタル面を考えて職員会議で詳しく話さない事になったらしい。警察の対応と今後の動き次第で休校になる可能性もあるという事だった。ただマスコミには気を付けるようにと注意された。
先生は寄り道せずに帰るようにときつく言っていたが、生徒達はこんな時でも「ゲーセン行こうよ」「カフェ行きたい」などとヒソヒソと遊ぶ計画を立てていた。もちろん俺もその中の一人だ。
ショウとアヤカに「学校が終わり次第、ファミレスに集合しよう」と連絡を送ろうと思っていたのだった。
ブッー。スマホのバイブ音が鳴る。
俺はスマホを見てニヤッとしてしまった。どうやらショウとアヤカも同じことを考えていたようだ。
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