第9話

 弥生ちゃんが病院に搬送されてから一日が経過する。その間、俺は『ごめん。元気になったら、ちゃんと謝りたいから、会いたい』とだけ、アプリを使ってメッセージを送っていた。


 ──でも、まだ既読にはならない。当たり前だよな……俺はとにかく待つことにした。


 次の日、俺は何もする気になれなくて、ベッドの上で天井を見据えていた──すると携帯の着信音が聞こえてくる。


「弥生ちゃんからか!?」


 ──俺は直ぐに起き上がり、机の上にあった携帯を手にした。メッセージの相手は弥生ちゃん……ではなく、弥生ちゃんのお母さんからだった。


 ──弥生ちゃんのお母さんからのメッセージを読んで、俺は涙が込み上げてくる。そこには『弥生の母です。弥生ですが、残念ながら昨日、亡くなりました。今まで、ありがとうございました。葬儀は身内だけで行います』と、書かれていた。


「あぁ……」


 俺は机の上に携帯を放り投げると──ベッドに横になる。布団を被ると「──あぁ……あぁぁ!!!!!」と、思いっきり泣き叫んだ。


 嘘だ……そんなの嘘だッ!!! 俺はやる事やったッ! やったんだッ!!!!


「助からねぇ訳、ねぇだろッ!! くそったれッ!!!!」


 ※※※


 人間とは不思議なものだな。こんなにも悲しいのに……こんなにも苦しいのに……妙に落ち着いた瞬間が訪れる。俺は涙を拭く元気すら出ず、ただ茫然とベッドに横になっていた。


 これは弥生ちゃんを傷つけた罰なのか? だったら戻りたい……戻って無いものにしたい。もしそんな事が出来たら──。


「あ……」


 そういえば、社会人の時に入った骨董屋は、この世界にも存在するのだろうか? もし存在するなら、戻れるかもしれない!?


 俺は直ぐに起き上がり──机の上にある携帯を手にする。そして骨董屋があった場所を検索した──でもいくら探しても、骨董屋の情報は手に入らなかった


 ──こうなったら、行くしかない! 


 ※※※


 数日後、お線香だけでも上げたいと思った俺は、友達に弥生ちゃんの家の場所を聞き、勇気を出して家を訪れた──だけど、家に入ることなく弥生ちゃんのお母さんに断られてしまった。


 行き成りだったからもあると思うけど……険しい表情をしていたので、俺を恨んでいるのかもしれない。


 謝る機会を失ってしまったけど、悔やんでいても仕方ない……今はとにかく前に進みたい。


 ※※※


 俺は早めに部活を辞め、その時間をアルバイトに使うことにする。だけど今年、俺は受験生……無理はせずに働くことにした。


 ──それから三ヵ月ほど働いて、目的の金額に達する。俺は休みの日に、新幹線とタクシーを使って骨董屋があった場所へと向かった。


「あ、少し進んだら骨董屋があると思うので、そこの駐車所に止めて下さい」と、俺がタクシードライバーに話しかけると、タクシードライバーは首を傾げて「骨董屋?」


 何だか嫌な予感がする……でも、この人が知らないだけかもしれないから、とりあえず「近くになったら案内します」と、答えた。


 不安な気持ちを抱えたまま、外を眺める──頼む、あってくれよ……俺は祈るように両手をギュッと握った。


 ──少ししてカーブを曲がると、古い木造の建物が見えてくる。俺はホッと胸を撫で下ろした。良かった……あった。


「あ、あそこに建物があるの分かります? あそこの駐車場に止めて下さい」

「分かりました」


 タクシードライバーは返事をして、駐車場に車を止める──俺はタクシーから降りると「直ぐに戻るので待っていて下さい」


「分かりました」


 俺は駆け足で骨董屋へ向かう──あれ? 看板がない……とりあえず俺はドアノブを握り、引いてみる。ドアは──開かなかった。


 休みか? そう思って辺りを見渡す──が、何処にもそんな事は書かれていなかった。諦められない俺はもう一度ドアノブを握り、引いてみる──。


「やっぱりダメか……」


 俺は諦めタクシーに戻った──タクシーに乗ると運転手に向かって「もう用事は済んだので、駅に戻ってください」


 運転手は「分かりました」と返事をして車を動かす──俺は黙って外を見つめた。どうも納得いかない……。


「あの、すみません」

「はい?」

「さっきの建物、昔から何もやってないんですか?」

「昔は別荘として誰かが使ってたみたいですが、ここ最近は使ってないみたいですよ」

「そうですか……」


 ──という事は骨董屋が潰れた訳ではなく、もっと後に入ったって事か? 運が悪かったな……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る