第10話
更に月日が流れ──俺はもう一度、骨董屋があった場所を訪れたが、まだ骨董屋は存在していなかった。
イライラする……一体、いつになったら、骨董屋が入るんだ? 旅費だって結構かかる。何回も来られない──焦っても仕方ないのは分かっているけど、早く次に進みたい。
──その後、俺はもう一回だけ骨董屋があった場所へ行ったが、結果はダメだった。俺はここで一旦区切りをつけ、受験勉強に専念する。その甲斐があり、俺は昔と同じ専門学校へと進学することが出来た。
だけど一度、勉強したこととはいえ、ブランクがあるせいか苦戦してしまい、お金に余裕は無かった──どんどんと月日が流れてしまい、俺は結局、社会人になるまで骨董屋があった場所へ行くのを止めようと決めるのだった。
専門学校を無事に卒業し、前と同じ方が楽だと思った俺は、同じ会社へと就職をする。また営業マンとして働くことになった。
相変わらず仕事は忙しく、休みになっても疲れは取れない日々が続く──俺は骨董屋があった場所に行くことなく、1年も経ってしまった。
そんなある日──俺が出社すると、課長が近づいてくる。
「おはようございます」
「おはよう。松本君、行き成りで悪いんだが、今日の夕方、○○製作所に納品に行ってくれないか?」
「分かりました」
「一度、行ったことあるから場所は分かるだろ?」
「はい、大丈夫です」
「車は使う予定があるらしいから、電車で行ってくれ。直帰して良いから」
「承知しました」
俺が返事をすると、課長は自分の席の方へと戻っていった──久しぶりの外出だ。少しは気分転換になるかな?
※※※
夕方になり、俺は一人で電車に乗って取引先へと向かう──今週の休みこそ、骨董屋に行ける余裕あるかな……。
そろそろ行きたい。このままズルズル先延ばしにしていたら、弥生への気持ちが薄れてしまいそうで怖い。俺はそう思いながら、両手に抱えている段ボールをギュッと握った。
──○○製作所に着くと、受付に向かう。受付には前とは違う、ロングヘアの茶髪に毛先をウェーブさせた20代ぐらいの綺麗な女性が座っていた。
顔が何処となく明美に似ているせいか、妙に緊張したが、俺はカウンター越しに「あの……□□商事の松本です。納品に参りました」と話しかける。
女性はニコッと微笑むと「はい、伺っております」と言って、立ち上がった──カウンターから出てきて、製品と受領書を受け取ると、受領書にハンコを押す。
俺は受領書を受け取ると納品書を渡して「ありがとうございました」と言って、帰ろうと体を動かした。
「あ、ちょっと待ってください」
「はい?」
「弊社の小林が次回の納品について打ち合わせをしたいと言っていましたので、少々お待ち頂けますか?」
「あぁ、良いですよ」
女性は席に戻り、電話を始める──俺は邪魔にならない様に、カウンターから少し離れた場所で待つことにした──少しして女性が近づいて来て、横に並ぶ。
「いま呼びましたので、少々お待ちください」
「承知しました」
俺がそう返事をしても、女性はまだ用事があるのか、自分の席に戻らない。
「恭介君、久しぶりだね」
「え!?」
「高校時代、同じクラスだった明美だよ。気付かなかった?」
「いや……何となくそうかな? って思ったけど、綺麗になってたから、本人だと確信が持てなくて」
俺がそう返すと、明美さんは唇に指をあて、嬉しそうにクスッと笑う。
「ふふ、女性の扱いが上手くなったねぇ」
「本当の事を言っただけだよ」
「相変わらずだなぁ……ねぇ、このあと帰るだけ?」
「うん」
「じゃあ──」
明美はさんそう言い掛け、紺色ベストのポケットに手を突っ込む。メモ用紙? を取り出すと、俺に差し出した。
「これ、連絡先。仕事が終わったら、飲みに行こうよ」
「あ……うん」
いきなりの出来事に戸惑いながらも、俺は返事をしてメモを受け取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます