第6話
小鳥のさえずりが聞こえてきそうな程、爽やかな朝。学校へと続く並木道を、いつもの様にゆっくり歩いていると──急に後ろから車のクラクションと共にキーキーっとブレーキ音が聞こえてくる。
驚いた俺は、慌てて足を止め、後ろを振り返った──止まっている黒い車に向かって、弥生ちゃんが頭を下げている。まさか、轢かれそうになったのか?
──弥生ちゃんは車がいなくなると、安全を確認してこちらに向かって渡ってくる。俺は近づき「大丈夫?」と声を掛けた。
「うん。まだドキドキしてるけど、大丈夫」
「そう……ここの通り、見通しが良いからスピード出す人、多いから気をつけなよ」
「うん、ごめんね……恭介君が見えたから早く会いたくなっちゃって──」
「そうだったんだね。その気持ちは嬉しいけど……せっかく弥生ちゃんと仲良くなれたのに、悲しい事になるの嫌だからね」
弥生ちゃんはハッとした表情を浮かべると、俯き「──うん」と返事をして歩き出す。俺も弥生ちゃんに合わせて歩き出した。
※※※
授業が終わり休み時間に入ると、弥生ちゃんが俺の席の方へとやってくる。
「ねぇ、恭介君。今度の日曜日、空いてる?」
「空いてるよ」
「じゃあさ、観たい映画があるんだけど、付き合ってくれない?」
「良いよ」
弥生ちゃんは可愛らしく小さくガッツポーズをすると「やった! じゃあ連絡先、教えて」と言って、携帯をスカートから取り出した。
俺もズボンから携帯を取り出すと──連絡先を交換した。弥生ちゃんはスカートのポケットに携帯を戻すと「ありがとう。また連絡するね」と言って、戻っていく──。
「恭介君。最近、弥生と仲良いね」と、明美が話しかけてくる。俺が横に顔を向けると、明美は自分の席に座ろうと、椅子を引いている所だった。
「デートの約束でもしていたの?」
「うん」
「羨ましいな……」
明美は浮かない表情でそう言って、椅子に座る。
「羨ましいって、明美ちゃんは好きな人とか居ないの?」
「──好きな人って言うか……気になる人なら居るよ」
「だったら思い切って、その人を誘ってみたら?」
明美は俺の返答を聞いて、俯きながら黙り込む──苦笑いを浮かべると「ちょっと無理かな? 相手は好きな人、居そうだもん」
「へぇ……」
隆に好きな人なんて居たっけ? そういえば、そんな話をした事ないから知らないわ。まぁ何にしても、俺には関係ないし、この話はこの辺にしておくか。
※※※
デート当日。俺はネットで調べたカジュアルな服装に着替え、映画館へ直接、向かった──。
映画館に着くと、弥生ちゃんが入り口で待っているのを見つける。弥生ちゃんは、上が黒い無地のTシャツに、白いオーバーサイズのシャツを着ていて、下はデニムのショートパンツと、露出の高い部分と、低い部分を上手に使い分けた服装をしていた。
俺は勝手に大人しい服装や、可愛い系だと思っていただけに、目を逸らすぐらいドキドキしてしまった。
俺が近づくと、弥生ちゃんは俺に気付いたようで、ニコッと微笑み、小さく手を振ってくる。オーバーサイズのシャツのおかげで、手が少し隠れている所が、何とも可愛らしい。
「お待たせ、行こうか」
「うん」
俺達は並んで受付に行く──弥生ちゃんが受付のお姉さんに映画のタイトルと時間を言うと、お姉さんは「席はどこにします? 画面をタッチしてください」と、タブレットを差し出してきた。
「どうする?」と俺が聞くと、弥生ちゃんは人差し指を顎にあて「うーん……正面の方が見やすいけど、横に人が居ると落ち着かないから、端が良いかな?」
俺は後ろの右端を指さすと「この辺?」と聞いてみる。弥生ちゃんは頷きながら「うん」と返事をした──。
「周りに人は居るけど、二人だけの席って何だか恥ずかしいね」と、弥生ちゃんは照れながらも笑顔を浮かべ話しかけてくる。
ふふ、急に恥ずかしくなったのかな?
俺はお姉さんからチケットを受け取ると、一枚を弥生ちゃんに渡して「そうだね。でもキャンセルは出来ないよ」
「うん、分かってる」
「そう。じゃあ行こうか」
「うん!」
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