第5話

 次の日。体育の授業で俺はサッカーをしていた。今回も俺は、ディフェンスにまわって、クラスメイトのプレーを観ていた。


「恭介、行ったぞ!」


 クラスメイトの声が聞こえ、俺はグッと腰を低くしてドリブルしてくる男子を迎え撃つ──。


 お前の動きはもう分かってる! 釣られることなく俺は──男の子からボールを奪った。そして味方に向かってボールをクリアする。


 隆が近づいて来て「恭介。あいつを止めるなんて、すげぇーな」と言って、背中を軽く叩く。俺は照れながらも「いや、大したことないよ」と返した。


 ──俺のクリアは見事、味方に届き、それがキッカケでシュートが決まる。俺はクラスメイトに少しチヤホヤして貰って、この日の授業が終わった。


「あそこで止められるなんて、悔しいな……」と、サッカー部の男子が通り過ぎていく。


 ふふふ、やったね。この後は確か……ムフフ楽しみだと、肩に力が入った状態で廊下を歩いていると──あれ? 何にもない。


 過去だとこのタイミングで明美が土を払ってくれたのに……俺は足を止め、後ろを振り返る。すると、明美が友達と話しながら、俺の横を通り過ぎていった。


 ──そうか、今日の俺は転ばなかったからだ。今まで過去と同じだったから油断していたけど、行動が変われば未来も変わってしまうんだな。気を付けないと……。


 ※※※


 それにしても、まだ過去に戻ったなんて信じられない……なんかコスプレをして、高校に紛れ込んでいる。そんな感じで落ち着かない。


「恭介君、おはよう」


 俺が下駄箱で靴を履き替えていると、隣から弥生ちゃんが挨拶してくる。


「おはよう、今日は早い? ね」

「うん、だって……恭介君がこの時間に来るって分かったから──」


 弥生ちゃんはそう言ったことが恥ずかしかったのか、俺から視線を逸らすように俯く。本気なのか、からかっているのか、どっちか分からないけど……その曖昧さが、かえって俺をドキドキさせた。


「またまた……そんな事を言ったら、本気にしちゃうよ?」と、俺が冗談っぽく言うと、弥生さんは──黙り込む。


 えっと……攻めてくる割には押しに弱いのかな? 


 慌てて俺は「じょ、冗談だよ」と口にした。それを聞いた弥生ちゃんは顔を上げると「なぁんだ」と、明るい笑顔をみせた。


「えっと……途中まで一緒に行こうか?」

「うん!」


 俺は靴を履き替える弥生ちゃんを待つと──弥生ちゃんと一緒に並んで歩き出す。肩と肩がぶつかりそうなのを意識しながら、こうやって会話をしていると、やっぱりドキドキして楽しい……人生はこうでなくちゃ。


 ※※※


 こうして俺達は毎朝、挨拶を交わして、会話をしながら教室に向かうのを繰り返し、少しずつ仲良くなっていき──最近では朝の挨拶を交わすだけじゃ物足りなくなって、一緒に帰るまでの仲へとなっていた。


 放課後になり俺が廊下に出ると、廊下で待っていてくれたのか弥生ちゃんが近づいてくる。


「恭介君。今日、部活いく?」

「いや、今日は休みだよ」

「じゃあ駅前のファストフード店で、お茶して帰ろうよ」

「いいね、行こう」


 ──俺達は学校を出ると、駅前のファストフード店に向かう。ファストフード店はタイミングが悪かったのか、学生客がいっぱい居て、ガヤガヤと賑わっていた。


 とりあえず俺達はレジに向かって、飲み物を買う──飲み物を受け取ると、俺は辺りを見渡し「ザっと見た感じ、席が空いてない様だけど、どうしようか?」と、隣に居る弥生ちゃんに聞いてみた。


「うーん……あ、あそこ空いてるよ!」と、弥生ちゃんは席を見つけたようで端っこの窓際の方へと駆けていく。


 俺はゆっくり近づきながら「──空いてるけど、一つだけだね」


「じゃあ……ここ、座る?」


 弥生ちゃんは、からかっているのか自分の太ももをポンポン叩いて、ここに座れと誘ってくる。


 そ、そんなの恥ずかしくて出来ないよッ! ──なんて言うと思っているのか? はっはっ。残念! 俺は遠慮なく出来てしまうのだよ。


「おぉ、ありがとう!」と、俺が近づくと「え? え? 本当に座るの!?」と、弥生ちゃんは慌てだす。


 俺は思い通りの反応に、思わず笑みを零した。ふふ……慌ててる弥生ちゃん、可愛いな。これが見たかったんだよ。


「じゃ、じゃあ半分こね」


 弥生ちゃんはそう言って、退いてくれる。俺は「ありがとう」と言って、椅子の端っこに座った。


「ねぇ、恭介君。せっかくだから一緒のところ写真撮って良い?」と、弥生ちゃんは言って首を傾げる。俺が「うん、良いよ」と返事をすると、弥生ちゃんはスカートから携帯を取り出した──。


 弥生ちゃんは携帯を持った手を目一杯のばし「はーい、いくよ~」と言って──カメラのボタンを押した。


「上手く撮れた?」と俺が聞くと、弥生ちゃんはニコッと微笑み「うん、上手く撮れたよ!」と見せてくれる。


「本当だ。うまく撮れてるね」


 弥生ちゃんは胸の前で、大事なものを抱える様に携帯を握り締めると「ふふ、でしょ!? 後で送るね」と、返事をした。


 俺はそんな何気ない仕草にドキッ! としたが、「ありがとう」と返事をして、平静を装い、コーラーを飲み始めた──。


 にしても……お互いの温もりが分かるぐらい密着していたから、近いとは分かっていたけど、あんなに近かったんだな……弥生ちゃんは、写真を見ても平気なのか?


 チラッと視線を向けると、弥生ちゃんは携帯を見ながら、オレンジジュース飲んでいるだけで、気にしている様子は見られなかった。


 なんだ、気にしたのは俺だけか……まぁでも──何だか嬉しそうに見えるから良いか。

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